『悲しくて愛しい空』
幸人さんが逝ってしまって幾月流れただろう。
あの人の好きなものの一つ空を私は1人で眺めている。
浮き雲がながれゆくさまをただずっと。
幸人さんが私に空が好きだと教えてくれた二人の場所で。
泣かないなんて無理です。
幸人さんがくれたいっぱいの思い出が駆け巡ります。
幸人さん、私は寂しいです。
貴方の温もりが恋しいです。
心の中に貴方がいるけどそれでもやっぱり寂しいです。
〜「君はこの空を見るたび僕を思い出す事になる。」〜
貴方がそういった時私は「望むところです」と答えたけれど、やっぱり寂しくてどうしようもなくなるときがあるんです。
私は泣き虫だからと貴方はいってましたよね。
その通り私は泣き虫だから今だけここで泣かせて下さい。
泣きたくなったらここへ来て泣かせて下さい。
私は空を眺めながら幸人さんに心の中で呟く。
そして、草の上に寝ころがり思う存分泣いた。
涙が渇れ果てた頃、私はねてしまったのか夢をみた。
涙を流したまま眠る私にそっと近づく影。
「やっぱり、泣いちゃうんだね、君は。」
そう言って私の頬に伝う涙を拭ってくれる。
ああ、この手は幸人さん。
「でも、僕にはわかってたよ。君は泣き虫だからね。きっと泣くんだろうって。こんな残酷な贈り物を残した僕の事嫌いになったかな。」
少しおどけた感じで私に問いかける。
私は答える。
「いいえ、嫌いになんかなりません。どんなに泣くことになっても貴方を…幸人さんを愛してるから。」
私がそう言うと幸人さんは
「泣きたくなったらいつでもここへおいで。僕はいつでも君の傍にいるよ。君の涙を拭ってあげる。」
「本当に?」
「うん。僕は君を好きなんだから。永遠に僕の心は君を愛し続ける。だから、泣かないで。寂しがらないで。泣きたくなったら必ずここへおいで。君の涙を拭うのは僕の役目だから、ね。」
そう言うと幸人さんは静かに去ってゆく。
待って、待って…。
「待ってっ!」
そう手を伸ばし私は飛び起きた。
空は夕刻をしめしていた。
そっと頬に手を当てる。
夢だったはずなのに幸人さんの手の温もりが残っているような気がした。
「幸人さん。」
私は彼の名を呼んで空を見上げた。
幸人さんが笑いかけている姿がみえた。
そして声が聞こえたような気がした。
「大丈夫だよ、陽菜。」
そう言ってくれた。
「幸人さん、私は貴方の前でしか泣きません。」
私は空で笑う彼に誓った。