須藤 陸

コツコツやりたい。静かに過ごしたい。

須藤 陸

コツコツやりたい。静かに過ごしたい。

最近の記事

いつものように。

 いつものように、ワゴン車の荷室に作ったベッドに飼い犬のちょこを寝かせ、家を出る。通勤時間でも空いている田舎の国道を40分ほど走り、会社の駐車場に入る。エンジンを切り、リアゲートを開けると、ちょこはぐっすり寝ていた。年老いて毛並みはボロボロだが、無心に眠る姿は愛おしかった。ワゴン車の荷室は、彼にとって慣れた安心できる場所になっている。毎朝、荷室に乗せると大きな瞳で僕を見つめ、クルマを出すと振動に身を任せ、心地よさげに眠りに入る。  寝たきりになった老犬と一緒に出勤するように

    • 雲の切れ間から日が差すのが見えた

      僕は雷が嫌いだ。すごく怖い。 今朝の散歩のとき、夏の朝日が照り付けるなか、時折まとわりつくような湿った風が吹いて、嫌な感じがした。 お昼を過ぎた頃、遠くの空が灰色になって次第に広がり、僕のいる犬舎の上もすっかり覆ってしまった。 灰色の壁のような空の下に、黒い怪物のような雲が現れ始めた。 突然、強い風が吹く。 ・・・やっぱりだ。雷がくる。 犬舎の横に立っている梅の木の枝が揺れ、犬舎の屋根を叩く。 遠くで雷が鳴り始めた。 同居しているちょこは、黙って小屋の中に入ってしまった。 仕

      • 銭湯へ行く途中、すれ違った

        30年以上前の話。 国立市にある古い木造アパートに住んでいた僕は、歩いて10分ほどの銭湯に、一日おきに通っていた。 当時、銭湯代は260円だったと記憶しているが、アルバイトの安月給で毎日通うのは無理だった。 銭湯に行かない日は、流しで頭を洗い、濡らしたタオルで体を拭いて済ませていた。 銭湯に行く途中、小学校の敷地に沿って100mぐらい続く直線の歩道があって、その道は街灯の間隔が広く、薄暗かった。 道路の反対側には、私立の保育園があり、コンクリート造りの建物の壁一面にはって

        • いっぱいいるよ。

          ヤモリが台所の窓にへばりついていたので、動画を撮った. ヤモリを見たのは初めてだ。 撮った動画を見返しているうちに、この珍しいことを誰かに話したい欲求が、泉のように湧いてくる。 誰かに話したら、盛り上がるに違いない。 早速PCを開き、ヤモリについて調べる。 なになに「ヤモリは家の中にいる虫を食べ、古くから「家の守り神」と言われている」おお、それで家守(ヤモリ)か。素晴らしい。 翌日、仕事の合間をみて、やや声を弾ませて同僚に声をかける僕。 「昨日、ヤモリ見たよ!やっぱ温暖化

        いつものように。

          葬儀の帰りに

          同じ町に住む親戚4人が1台のクルマに同乗して、遠方に住む親戚の葬儀に出向いた。その帰り道でのこと。 「腹減ったな。ラーメン食ってくか」 一番年長のいとこの提案で、県道沿いのラーメン屋に入る。 僕は炒飯と餃子、他3人はラーメンを注文。 最初に運ばれてきたのが、僕の炒飯。 件のいとこが「温かいうちに食え」と言うので先に食べ始める。 「美味いか?」 「はい」 「さっき炒飯炒める音が聞こえなかったっぺ。冷凍食品だ。・・逆に美味かっぺ」 「・・マジすか」 どうでもいい話ほど忘れない。

          葬儀の帰りに