エッセイ | 古き友 | #シロクマ文芸部
始まりは、前の席の彼女が落とした消しゴムを拾ってあげたことだった。
「ありがとう」
彼女は後ろに座っている私にそう言い、消しゴムを受け取った。
小学三年生の4月
初めてのクラス替えに緊張していた。
-友だちはできるだろうか-
出席番号は名前の五十音順で、たまたま前後に座っていた私たちは、何十年も経った今でも友人として連絡を取り合っている。
どう仲良くなっていったのか、全く覚えていない。自然と友だちになっていた。
「意地悪そうな子だと思った」
少しつり上がった大きい目でキツそうな名前の私の第一印象を彼女はそう言い、今では笑い話となっている。
あの時にそう彼女に言われたエピソードは、ずっと話の種にさせてもらっていて、子どもの頃は意地悪そうに見える顔も名前も嫌いだったけれど、今ではこの名前も顔も好きだ。
これが私なのだから。
もういい歳になり、さすがに物を拾ってあげたくらいで友だちは出来ないけれど、あの時の気持ちをずっと忘れずにいたい。
彼女は初めての映画館にも誘ってくれた。
映画『小さな恋のメロディ』
シロクマ文芸部の企画に参加しました。
小牧幸助さん
いつもありがとうございます。