小説「人生の儚さについて」第五話
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「圭一へ
あなたが戦地にいる間、私はお父さんと静かに暮らしていました。物価は随分と高くなったものの、お父さんのおかげでいい生活ができていました。近所の人たちと協力しながら、なんとか戦争の危機を乗り越えていました。
戦争がそろそろ終わると聞いたとき、やっと圭一が帰ってくる、私の愛する息子が帰ってくると喜んだものです。何せ我が家ではあなただけが一家の頼みの綱なんですからね。それを聞いた時はお父さんも喜んでいましたよ。
なのに、突然、この街は爆撃に遭いました。私はたまたま隣町に買い物に出掛けていましたから、被害を受けずにすみました。ですが、あなたのお父さんは・・・この家にいました。そりゃあ、自分が建てた家なんですから、ずっといたいに決まっているでしょう。お父さんは周りの家が爆撃に遭っても逃げませんでした。いいえ、逃げられなかったのです。
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