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マンションが売れた!

(2022年1月頃)

母が私の住む団地に引っ越してきたのを機に、母の住んでいたマンションを売りに出した。

このマンションは25年ほど前に、父と母がそれまで貯めていたお金と、退職金の一部を使って買ったものだ。

幸い、名古屋市内の住宅街で環境も良好、築年数や間取りを考慮して、我々はすぐに買い手がつくと思っていた。

ところが現実はそう甘くはなく、なかなか買い手が現れなかった。

私たちは、希望の金額を大幅に下げることで、やっと半年後に売買契約が成立した。

ここで初めて知ったのですが、持ち主が認知症だと売るのは難しくなるんだそうだ。知らんかったぁ。危なかったぁ。

幸い、パーキンソン病ではあるものの、頭はしっかりしていたので、手続きはスムーズにできた。はぁ。良かった。

もしこれが、認知症になっていて、母が亡くなるまで家も売れないとなると、老後資金に苦しむことになっていたかもしれない。本当に運がよかった。

しばらくして、母が売れたマンションを見に行きたいと言い出した。

どんな人が住んでいるのか、見ておきたいという。

私は、人の住んでいる家を覗き見するなんて趣味が悪いと思ったけど、

こういう時の彼女の意思は、石より固く、超合金より硬い。

私はあきらめて、車椅子の母を連れ出した。

その日は少し肌寒いながらも、ポカポカ陽気だったので、私たちはバスで出かけることにした。

名古屋市は市バスがとても便利。

車椅子でも楽々乗車できるんです。バスの運転手さんが2つの椅子を畳んで、車椅子専用のスペースを作り、

降車側の出入り口に、スロープを設置して、そこから車椅子ごと乗せる。

この作業に、だいたい3分くらいかかるのですが、他の乗客の視線はおおむね温かく、母との3年間の車椅子生活で、100回くらい乗車しましたが、一度も嫌な顔をされたことはない。

「世間はもっと、障害者に冷たいと思っていたのに、こんなに優しいんだ」と気づいた。

みみみんな、優しい〜。車椅子で出かけるたびに、たくさんの人に親切にしていただいて感動した。


運転手さんも、嫌な顔ひとつせず、安全に乗れるように、気を配ってくれる。


バスを降りて、車椅子を押して5分ほど行くと、私たちはマンションに着いた。

部屋は1階にあり、部屋の前に専用の駐車場があって、大きなワゴンの車があり、大人と子供のスリッパが無造作に脱ぎ捨てられていた。

「お母さん、どうやら小さい子がいる家族が住んでいるみたいだね」

母の顔を覗き込むと、嬉しいような寂しいような、複雑な表情をしていたので、私は喋りかけるのをやめて、周りをぐるっと一周する。

母は気が済んだのか、「帰ろうか」とポツリと言った。

父と過ごした思い出の詰まったこの部屋に、心の区切りがついたようだった。

天気が良く気持ちのいい日だったので、帰りはこのまま車椅子を押して、歩いて家まで帰ることにした。

歩くと、40〜50分くらいかかるのだが、少し早歩きをしてスピードを上げると、脚をピーンとまっすぐに伸ばして、ジェットコースターにでも乗っている気分なのか、とても楽しそう。

母が楽しそうだと私も嬉しい。

半分くらい来たところで、母は歩いてみると言いだす。

パーキンソン病のため、背骨が歪みバランスが取れずヨロヨロしながらも、杖を渡すと、両足でしっかり歩けた。


暖かい日だったとはいえ、流石に体が冷えたので、帰ってすぐに湯豆腐を食べて、その日は2人とも8時に寝た。


❤︎LOVE&MIND&SOUL&MUSIC♬



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