10年間、口もきかずに同居しています。
長年夫婦関係のご相談を受けていると、様々な家庭内別居の話を聞く機会があります。例えば、先日は、家庭内別居が長く続いていて、既に10年間、一言も会話をしたことがないという方からご相談がありました。
同じ家に居ながらにして、10年間口をきかないというのはどんな生活なのか、想像もつかないと思います。しかし、どんな長期間にわたる家庭内別居も、始めからそうなることが予想されていたのではなく、「結果的に」そうなっただけなのです。
そこで、今日は、夫婦不和から家庭内別居へと進行する過程を段階的に5段階に分けてみたいと思います。
1. コミュニケーションの減少
初期段階では、まずは、夫婦間のコミュニケーションが徐々に減少します。特にけんかをしているわけでも、無視をしているわけでもないけれど、何だか話すのが億劫だったり、気まずくなったりするのです。
どうしてそうしたことが起こるのでしょうか。大抵は、些細な誤解や不満が積み重なり、「この人と話していても、何だか前向きな気持ちになれない。」、「自分ひとりで考えて解決した方が早い」。そんな気持ちが積み重なって、コミュニケーションが減っていきます。
この段階では、相手に対する明確な嫌悪感がないのが特徴です。夫婦生活の中で、きっと誰しも感じる感情であり、特別なものではありません。忙しいこと等を相手とのコミュニケーションが減ったことの理由にしている段階です。
2. 感情的な疎外感の増大
次にやってくるのが「疎外感」です。コミュニケーションが減った結果、お互いに対する思いやりや愛情の表現が減少し、関係が冷めていく段階です。
コミュニケーションが減るということは、当たり前ですが、相手に対するプラスの感情表現もなくなっていくということです。「今日の料理はおいしいね。」「いつも遅くまでお疲れ様」といった相手に感謝をしたり労わったりする言葉が減ってきます。
そうすると、夫婦間での感情的なつながりが希薄になり、疎外感を感じたりします。「この人といると、二人なのにひとりぼっちような気がする。」そんな気持ちになったりします。
3. 生活リズムの乖離
お互いに感情的な結びつきが希薄になってくると、次にやってくるのが生活リズムの乖離です。別々の時間に食事をとる、別々の部屋で過ごす時間が増えるなど、日常生活での接点が減っていきます。
特に、子どものいない夫婦などは、気を付けていないと平日も休日も顔を合わさなかったなんてことが十分にあり得ます。
4. 感情の悪化
生活リズムが異なる夫婦というのは、意外と多かったりします。しかし、この「感情の悪化」というフェーズを経ると、ぐっと夫婦不和による家庭内別居の完成形に近づきます。
最初は、何だか相手のコミュニケーションが億劫だっただけなのが、段々、話しても理解されない、逆に傷付けられる、話し合っても怒鳴られる、そんな経験が重なると、相手の感情が悪化していきます。
最初の段階から感情を追ってみると以下のようになります。
忙しくてすれ違い、何だか相手との接触が億劫
感謝やいたわりの気持ちがなくなる、二人でいる必要性に疑問
一緒の活動をしたくなくなる
相手と話すのが苦痛
5. 経済的な分離
相手が嫌になった後にやってくるのが経済的な分離です。
例えば、一緒に食事をしたり、外出することがなくなると、二人のために支出する機会がなくなっていきます。自分で買ってきた食材で自分で自炊する。外食するときも自分だけ(友人と一緒ということはあるかもしれませんが)ということになります。
この「経済的分離」は共働き夫婦の場合に通る過程であり、専業主婦の場合は、この経済的分離を経ずして、次の段階に至ります。
6. 家庭内別居の確立
1から5の段階を経て、以下のような状態になれば、家庭内別居の確立です。
一切口をきかない。用事があるときはLINEやメールを使う
相手と同じ空間にいたくない。夫が帰宅すれば、妻は自室に戻る、など。
互いに給料は不知
相手の実家の親族行事にも参加しない
数日間、相手の姿さえ見ないことがある
相手の声も聞きたくない
この過程は夫婦によって異なり、一部の段階を経ずに家庭内別居に至るケースもあります。また、これらの段階を認識し、適切な対応やカウンセリングを行うことで、関係の修復が可能な場合もあります。
「あれ、途中の段階まで来てるかも・・・。」という方は、ぜひ、今後の夫婦関係についてよく考えてみていただければと思います。
ちなみに、10年間口をきかなかった夫婦のご相談ですが、その方は、結果として夫婦関係の継続を選択されました。「こんな関係は清算したい!」と思ってのご相談でしたが、子どものこと、お金のこと、実家のこと、色々な状況がまだ整っていなかったようです。