夫婦の言い分はなぜ食い違うか。1つの事実から2つのストーリーが生まれるわけ
夫や妻と喧嘩をする際、「なぜこの人は私のことを分かってくれないのだろう」とか、「話にならない、通じない」という感覚を持つ人も多いのではないでしょうか。
そんな風に感じる原因は多様ですが、その一つが「事実は一つでも、見ている場所や感じていることが違う」という理由です。
ぜひ、カウンセラーになった気分で、夫婦カウンセリングの現場の様子をのぞいてみてください(あるあるを詰め込んだ架空の事例です。)
妻が嘘つきか、夫が嘘つきか
先日、夫婦カウンセリングにAさん夫婦がやってきました。ふたりとも深刻な顔をしていて、緊張感も高い様子でしたので、最初は別々にお話をうかがうことにしました。(太字の部分に注目してみてください)
妻の言い分ー夫に育児は任せられません
まずは妻からです。妻は、夫がいかに育児に非協力的で自分が大変な目にあっている、そして、たまに夫が育児をしても、そのやり方がとんでもないので任せられないという訴えです。具体的にはこんな感じです。
「夫が仕事で忙しいのは分かっていますが、夜はほとんどワンオペです。しかも、ワンオペ育児で大変なのに、夫から家計のために働いてほしいと言われ、今は仕事も始めたので、余計に大変です。
この前も、子どもが熱を出したとき、当たり前に私が休みを取りました。そのせいで、仕事が遅れて本当に大変でした。でも、夫はきっと私が休むのが当たり前で、感謝すらしていないと思います。
それに、たまに育児をお願いしても、心配で心配で・・・。先日、家族でスーパーに買い出しに行きました。私は短時間で数日分の買い物を済ませたかったので、夫に子どもを見ておいてくれるように頼みました。
なのに夫は、本当に見ているだけで・・・。子どもの泣き声が聞こえたのでびっくりして振り返ると、子どもが棚にぶつかって泣いているんです。
夫は、走り回る子どもを注意もせず、本当に後ろから見ていただけなんです。もちろん、この一件でも口論になりましたが、いつもこんな感じで育児に関するけんかが絶えません。
妻の言い分を聞いた感想は?
さて、カウンセラーのみなさんは、どんな風な感想を持ったでしょうか。なんともひどい夫だと思いませんか?
家事育児を妻に押し付けている上に、妻を働かせて…。たまに育児を手伝えば子どもを危険な目に遭わせるし、本当にひどい夫だ。
そんな風に思ったのではないでしょうか。では、ここで夫の言い分も聞いてみましょう。
夫の言い分ー僕が普通で妻がおかしいのでは
一方、夫から話を聞いてみると、また違う事実が見えてきます。夫としては、仕事が忙しいながらもできることは手伝おうとしている。でも、妻の育児へのこだわりが強すぎて、ついていけないというのです。夫の言い分は以下のような感じです。
「大前提として、僕は仕事がかなり忙しいです。大体、毎晩帰宅は12時を過ぎます。そのこと自体は妻に申し訳ないと思っているのですが、基本給が低いのもあって、余裕のある生活をするためには、今の仕事のスタイルは妻も同意の上だと思っています。
そんな中でも、朝は手伝えることは手伝おうと思っています。朝食を作ってくれるのは妻ですが、妻と同じ時間には起きて、子どもの食事や着替えの世話をして、保育園まで送って行っています。
土日もできるだけ子どもと過ごすようにしています。仕事量から考えると、僕の育児の量は悪くないんじゃないかと思います。
それに、妻はぼくが働くよう強制したような言い方をしますが、それは違います。ぼくの収入は900万円です。夫婦と小さい子どもが食べていくには十分な金額だと思うのですが、妻は、子どもの教育に色々と使いたがるので足りないそうです。だから、ぼくはこれ以上は稼げないから、必要なら自分で働いてほしいと言っただけです。
子どもが熱を出したときは、妻にお願いすることが多いですが、時にはぼくが休暇を取ることもあります。こんな言い方すると嫌な奴だと思われそうですが、でもやっぱり収入の差ってあると思うんです。
僕は年収900万円で、妻はパートなので年間150万円くらいです。おのずと責任の重さも違ってきますし、突発的な休みの取りやすさも違うと思います。
何より困っているのが妻の細かさです。先日も、ちゃんと子どもを見ていないと激怒されました。
スーパーに行った際、妻が買い物をしている間、僕が子どもを見ていたんです。そんなに混雑していたわけでもないし、子どももすごいスピードで走り回っていたわけではありません。ちょっと「小走り」程度だったのですが、転んでしまったんです。そんなの、日常茶飯事だと思うのですが、まるで僕が子どもを命にかかわるような危険にさらしたような言い方をされました。
一事が万事、そんなことなので、もう困ってしまうんですよ。手伝わないと文句を言われるし、手伝っても文句を言われるし・・。しかも、その文句が強烈というか・・・。毎回キレられるのも疲れるんです。
妻は、「けんか」という言葉を使いますが、ぼくはそうな思いません。妻が一方的に泣きわめき、ぼくはそれが終わるのをじっと待っているだけです。
人は自分の見たいところだけを見る、話したいことだけを話す
いかかでしょうか。夫の言い分も聞くと、あなたの妻への印象は大きく変わったのではないでしょうか。
こうしたやり取りの興味深いところは、二人とも嘘をついていないところです。
例えば、妻は、「夜はワンオペです」と言いました。これを聞いて「じゃあ、朝は?」と疑問を持つ人は少なく、素直に「ワンオペで大変ね」となるのです。
そして夫の言い分は「朝は結構やってる。仕事量を考えると、結構やってるう」というのです。確かに、深夜12時に帰宅するのに、妻と同じ時間に起きて手伝うのは大変なことです。
そのほかのエピソードも同じで、妻も夫も嘘はついていないのですが、違う側面を切り取って主張しているだけなのです。
人って、自分にとって有利なことや相手に知ってほしいことを無意識に選んで話をします。自分が不利になることや、知られたくないことだけど、平等に話しておこう、なんていう奇特な人はいないのです。
「どうして相手は自分の言いたいことを分かってくれないんだろう」、「どうして嘘をつくのだろう」「なぜか話がかみ合わない」と思う人は、きっと夫婦の会話の中で、こうしたことが起こっているのではないでしょうか。