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子宮頸がんワクチン積極的接種勧奨再開決定について

本日、世界約140ヶ国で承認、日本を含む110ヶ国以上で定期接種となっている「子宮頸がん(HPV)ワクチン」の積極的接種勧奨が再開することが決まりました。

主な報道は以下の通りです。

朝日新聞

時事通信

東京新聞


各社、①ワクチン接種後の症状を診る診療体制ができたこと、②ワクチンの効果に関するエビデンスが積み重なっていること、③接種の機会を逃した人へのキャッチアップ接種が検討されていることの3点を強調していますが、気になるのは①と②の伝え方です。

たとえば、朝日新聞は

ワクチンは2009年に承認され、13年4月に原則無料の定期接種となった。しかし、接種後に体の広範囲が痛むなどの「多様な症状」の訴えが相次いだ。厚労省は同年6月、定期接種の位置づけは維持する一方、対象者に個別に接種を呼びかける積極的勧奨を中止した。

今年10月にあった前回の部会では、ワクチンの安全性や有効性▽接種後に生じた症状に苦しんでいる人たちに寄り添った支援▽情報提供の進め方――について議論。委員から再開への異論は出ず「大きな方向性として、積極的勧奨を妨げる要素はない」と総括された。

今回の部会では、有効性を確認し、安全性についても特段の懸念が認められないこと▽接種後の症状を診る協力医療機関の診療実態を継続的に調査し、体制も強化すること▽都道府県や学校、地域の医療機関が連携して相談支援体制をつくること▽リーフレットを改定すること――などを確認した。

と書いています。

これではまるで子宮頸がんワクチンを打てば深刻な副反応が起きることもあるが、ワクチンに”よって”体調を崩した場合の診療体制が整ったから再開するように聞こえます。しかし、実際に整ったのは、ワクチンを接種した”後に”起きた症状で、ワクチン薬剤と因果関係の認められないものでも複数の診療科で連携しながら診て行く体制です。

具体的には、脳や神経に異常があるわけではないのに、心的なものに装飾されて現れる痙攣や痛みなどを、心療内科や精神科、神経内科、麻酔科などの専門科と内科や小児科、整形外科などが連携して診ていく体制ができたという意味です。身体表現性障害の代表的なものは、脳波には異常の無い(つまり脳は正常である)「偽発作」とよばれる痙攣です。

メディアは、診療体制の話とは別に、子宮頸がんワクチンの安全性は膨大な科学的データがあり、「何も心配がない」ことをはっきりと分かるように報じるべきでしょう。

ただ、これは報道だけの問題だけではないかもしれません。

今日はわたしも早起きしてドイツから部会をオンライン傍聴しましたが、議論は「接種後に生じた症状に苦しんでいる人たちに寄り添った支援や情報提供」の話に集中し、症状とワクチン薬剤に因果関係があるかどうかについては一切触れられませんでした

勧奨停止から再開の決定まで8年5か月、長い時間が過ぎました。

積極的接種勧奨の停止以降、8割ほどあった日本の子宮頸がんワクチン定期接種率は1%以下に激減。2016年には世界初の子宮頸がんワクチンによるものだという被害に対する「エビデンスなき国家賠償請求訴訟」に至るまでこじらせ、日本は世界の医学史に暗く不名誉な1ページを刻みました

厚労省も難しい立場に置かれていることは理解しています。だからこそ、敢えてその点をはっきりさせないで再開にもっていこうとしているのかもしれません。

しかし、こうした曖昧な物言いこそが、国の専門家が子宮頸がんワクチンの安全性に自信を持てないでいるようかのような誤解を与え、国民の子宮頸がんワクチンに対する信頼を損なっているようにも思えます。

8年以上もの間勧奨を止めたことで、どれだけ多くの亡くならなくてよかった女性が亡くなるのか、産むことのできた女性が産めなくなるのかーー。

そのことを考えると胸が苦しくなります。

勧奨が1年止まるごとに失われることになる、ワクチンで守れたはずの子宮の数は日本だけで1万個。国賠訴訟が終わるまでには最低でも10年、訴訟が終わるまでは勧奨再開は難しいと言われる中、いくつもの障害を乗り越えて2018年に刊行されたわたしのデビュー作は、失われていく10万個の子宮とその持ち主の女性たち、その子宮から生まれてくるはずだった子どもたちへのやり場のない思いを込めて『10万個の子宮』と名付けられました

国が訴えられた2か月後、わたし自身、反子宮頸がんワクチン運動の理論的支柱だった医師から名誉棄損訴訟を起こされました。期日のたびに裁判所に反ワクチン団体が押しかけ横断幕を掲げて街頭演説を行う中、海外に拠点を移して最高裁で決着するまで3年半。マイナスをゼロにするためだけにエネルギーを使う、不毛で消耗する時間でした。

それでも「10万個の子宮」の刊行以降、ゆっくりと色んな変化がありました。

まず一度は黙った医師たちが再び声を上げるようになりました。クレームに怯える行政も、地方から、おそるおそる重い腰を上げ始めました。メディアも被害を訴える人を積極的に取り上げることはほとんどなくなりました。やがてパンデミックが始まり、ワクチンをめぐる情報が多くの人々の命と健康を揺るがす時代が訪れました。

8年越しでやっと実現した子宮頸がんワクチンの積極的接種勧奨再開の決定は、その全ての結晶なのでしょう。

長年の積極的接種勧奨の停止がもたらした負の遺産は大きく、決して勧奨再開で全てが解消するものではありません。しかし、国が「子宮頸がんワクチンを推奨する」と明言したことを大きな一歩として、今日の決定を祝したいと思います。

皆さま方、本当にお疲れさまでした。

2021年11月12日 村中璃子

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