ブックレビュー『mRNAワクチンの衝撃 コロナ制圧と医療の未来』

独バイオベンチャー、ビオンテックの新型コロナワクチン開発のいきさつを描いた新刊『mRNAワクチンの衝撃』。

トルコ系移民の2世としてドイツで育った創業者の医師夫妻ふたりの生い立ちに始まり、当初は共同開発に「ノー」だった巨大製薬会社ファイザーを説き伏せ、その莫大な資本力とグローバルネットワークを元に従来では考えられない「光のスピード」で治験を開始。国を超え利害を超え、他企業や研究所、当局の科学者たちの協力も得ながら1年足らずでワクチンを完成させるまでを描く。

ｍＲＮＡワクチンの衝撃　コロナ制圧と医療の未来

コロナやワクチンの本というと、まっとうな内容でも論文のまとめやインタビューの羅列がほとんどで、出版される頃には内容が古くなっていたり、読み物としてつまらないことが多い。

一方、本書の読みどころはアカデミアに小さく閉じこもりがちな科学をあらゆる現実的な手段を駆使して社会に解き放つプロセスであり、色あせることのない壮大で痛快な物語だ。科学的な部分もかみ砕いて分かりやすく書かれているが、科学の部分に興味がない人でも科学者たちの意志と情熱、行動力と実行力に感動するに違いない。

原題は「The Vaccine」と「ワクチン（Vaccine)」に「ザ（the）」をつけただけのもの。いまや「ワクチン」と言えば、わざわざ新型コロナのワクチンだと断る必要もないほど、わたしたちにとってワクチンが身近な存在となったことを物語っている。

ワクチン学の世界的権威、石井健氏の監修で翻訳の正確さにも安心感があり、訳文の日本語も申し分ない。

ｍＲＮＡワクチンの衝撃　コロナ制圧と医療の未来

同じく2021年に刊行され、気になっているワクチン開発競争の本がほかにもある。1冊は