天文学の見地から見る"コメティック"
noteではご無沙汰しております。
バーチャル理科教師 西薗です。
シャニマスについてはいつも布教記事ばかり書いていますが、今回は公式でシャニマス感想コンテストなるものが開催されているということで、初めて感想記事を書いてみようと思います。
まぁ浅学非才のいちオタクの感想をただ書き連ねても面白くないと思うので、せっかくならバーチャル理科教師らしく理科に絡めた考察をしたいところですね。
というわけで今回はシャニマスで最も新しいユニット「コメティック」について、天文学の視点から考察していきます。
"黒色彗星"コメティック
コメティックは2023年7月23日、「新時代到来の予兆、黒色彗星(カラーレス・アイドル)」というキャッチコピーと共に発表されました。
これまでもこれからもソロで活動していくと思われていた斑鳩ルカを擁するこのユニットは、まさしく「彗星の如く現れた」と形容されるに相応しい鮮烈なデビューを飾ったと言えるでしょう。
さて「comet(彗星)」の名を冠するこのユニットは、その名の通り彗星をモチーフにしている描写が随所に見られます。
最初は、コメティックのコミュのタイトルに施された意匠について考えてみたいと思います。
C/MOVEMENT BEGINNING
「C/MOVEMENT BEGINNING」は、シャニソンにおけるコメティックの最初のプロデュースシナリオです。
このシナリオの各話タイトルは次のようになっています。
star / 出現記録 H01
出現記録 L01
出現記録 H02
出現記録 L02
出現記録 H03
出現記録 L03
出現記録 H04
出現記録 HL / t
これらのタイトルは、彗星が発見されたときに付与される符号になぞらえられていると考えられます。
彗星が新たに観測されたとき、次の例のような符号が付与されます。
このとき、"C"は彗星であること、"2011"は発見年、"L"は発見時期、"4"は発見順を表します。
定義に従えば"H"は4月後半、"L"は6月前半を指します。
しかし実際にはタイトルに"H"がつくコミュでは羽那とはるき、"L"がつくコミュではルカが描かれるので、各話タイトルはそれぞれの頭文字を取って命名されたものでしょう。
H01の前についている"star/"は、本来"C"などのアルファベット1文字が入る位置に"star"が入っていることから、この段階ではまだ羽那とはるきは彗星ではなく小さな星であるということを示唆していると考えられます。
(ただし、実際は恒星には彗星と異なる文法で符号が付与されます)
また、ラストの"HL / t"も彗星の符号に則っていません。
HとLはそれぞれ羽那/はるきとルカを表していることから、3人が一体となって1つの彗星となったことを示唆していると思われます。
"/t"については天文学の文脈では解釈できませんが、物理学の文脈で言えば「時間あたり」を表すのが一般的です。
実際のコミュでも「3人それぞれの未来にとって大事な挑戦になる」とプロデューサーが語っていることから、"time"を意味している……というのがある程度妥当な解釈かと思います。
またこじつけを許すならば、"/t"は"per t"、つまり「パーティー」と発音できることから、3人が「集まった」ことにも掛けている……とも言えるかもしれません。
no/ode
「no/ode」は、シャニマスにおけるコメティックの最初のイベントコミュです。内容としてはシャニソンの「C/MOVEMENT BEGINNING」の補完及び続編に当たります。
「no/ode」のロゴを見ると、2つの"o"が重なっているように見えます。
これは、元々"node"だったものが分裂しようとしているか、あるいはこれから"node"になろうとしていると解釈できます。
「ノード」といえば、ビジュアルプログラミングやネットワークを嗜む人ならばお馴染みの単語かと思いますが、辞書的に言えば「結び目」や「節」を表します。
"node"は天文学の文脈では「天体の軌道とある面との交点」を指します。
例えば「地球の軌道面と月の軌道との交点(node)に月がいて、かつ満月であるときは、月食が発生する位置関係である」といったことが言えます。
コミュの内容からして、ここでは「彗星の軌道同士の交点」、すなわち3人が接触することを示唆していると考えて良いでしょう。
よって「no/ode」は、これから3人の軌道が交わることを示したタイトルであると考えられます。
ただ、"no", "/", "ode"に分けて考えた場合、天文学的な文脈では解釈できません。
検索したところでは、"ode"はフランス語で「頌歌(しょうか)」を表すそうです。「頌歌」は叙情詩の一種で、有名なところだと「冬来たりなば春遠からじ」というフレーズで知られる詩が"ode"の名を冠しているようです。正直よくわかりませんね。
雑に解釈するとすれば、"no ode"は「賛歌などいらない」といったところでしょうか。それにこれから"node"になっていく様を重ねて、「no/ode」となった、と。
こんな感じでどうでしょ。へへ。ダンナは今日もお召し物がお似合いで。
尻すぼみ感が半端ないですが、とにかくコメティックのコミュタイトルには彗星に関する意匠が多く施されているということがおわかり頂けたかと思います。
そもそも彗星とは何か
さて、ここまで「彗星」という単語を当たり前のように使ってきましたが、そもそも彗星とは何なのかピンと来ない人も多いかと思います。
ここで、彗星とはどんな天体なのかを解説します。
彗星は、太陽系の端の方にある大きさ1~100km程度氷の塊が、太陽の重力に引かれて近付いてきたものです。地球の直径が10000kmくらいなので、天体としては非常に小さいと言えます。
尾を引いている見た目から夜空を高速で移動しているようなイメージを持ちたくなりますが、実際は地球から見ると数年~数十年間見え続けるほどゆっくりと動きます。
彗星は氷の他に二酸化炭素/一酸化炭素といったガスと、小さな塵を含みます。有機物を含んでいる例もあり、生命は彗星によってもたらされたとする説もあります。
この性質から、彗星はしばしば「汚れた雪だるま」と例えられます。
この描写はシャニマスのコミュ内でもしばしば見られます。
彗星は光を放てない
アイドルマスターシリーズにおいてアイドルがしばしば星に例えられることは、イルミネーションスターズを見れば語るべくもないでしょう。
星にも色々な種類がありますが、単に「星」と言った場合、それは星座を形作る星である「恒星」を指すことがほとんどです。
恒星は巨大で高温であり、自ら光を放つことができます。我々が夜空を見上げた時に視界に入る星の99.9%以上が恒星です。太陽も恒星です。
一方で、自ら輝くことができない星もあります。月や惑星、そして彗星がそれに該当します。
月や惑星は太陽の光を反射することで夜空で存在感を放つことができますが、彗星はあまりにも小さいため、それすら叶いません。
では地球上から彗星はどうやって発見されるのか。
彗星は自らを太陽に灼かせることで輝きます。
彗星は太陽からの熱を受け、氷が溶けてガスと塵が放出されていきます。
それによって拡散したガスや塵に太陽の光が反射することで輝いて見えるのです。
こうして放出されたガスと塵は、太陽から放出される荷電粒子と電磁波によって流され、尾を形成します。
つまり、彗星は太陽に身を灼かせながらガスと塵を撒き散らし、なおも太陽に近づいていく汚れた雪だるまなのです。
斑鳩ルカの登場するコミュには雪がよく登場します。そして美琴とのユニットを解散して以降のルカは、雪を「ゴミみてぇ」と形容し、忌み嫌っています。
これは、ルカが自らの魂を削りながら輝いていることの示唆なのかもしれません。
彗星にしか出せない色
単に「星」と言った場合、ほとんどの場合は自ら光り輝く恒星を指します。
では夜空にある星はどんな色のものがあるでしょうか。
……まぁ大体白にしか見えないと思いますが。よく見ると赤とか黄色とか個性豊かです。
実は恒星の色はその星の温度によって決まります。
温度が低いほど赤い色になり、温度が上がるにつれて橙→黄色→白→青と変化していきます。
ここで意外なのが、虹の色っぽい遷移なのになぜか緑色がないことです。
これはなぜかというと複雑なので割愛しますが、温度の分布の原理上、緑色の光だけが突出して多い星というのは存在し得ないのです。
しかし、彗星には緑色のものが存在します。
これは、彗星の光は温度ではなく物質(……や、その他さまざまな要素)によって決まるためです。
つまり、彗星には恒星には出せない色を出すことができるのです。
これは自ら光り輝くのではなく、自らの身体を焼き焦がすことによってしか出せない色があるという事実に他ならないのです。
……まぁ、コメティックは「黒色彗星(カラーレス・アイドル)」なので、色とかはあんまり関係ないんですが。へへ。ダンナは今日もお召し物がお似合いで。
コメティックの軌跡は何をもたらすか
脱線しすぎた上にあまりコメティックにも関係なかったので話題をシャニマスに戻します。
シャニマス公式サイトにおけるコメティックの紹介ページには次のような記載があります。
彗星の軌跡[ストーリー]が示すのは、闇か光か、はたまた――
彼女たちの行く末(あるいは未来から見て歩んできた道)が光か闇か、それは今後シャニマスを通じて知っていくことになると思いますが。
天文学的な視点から見ると、彗星の軌跡には確実に残るものがあると言えます。
それは、太陽に灼かれて撒き散らされたガスと塵です。
彗星が通った後には、彗星から撒き散らされた塵の帯(ダストトレイル)が残ります。
そしてその塵の帯は、「流星群」になります。
流星は、小さな塵が地球の大気に侵入したとき、大気との激しい衝突や急激な気圧の変化によってプラズマ化することで発光する現象です。
つまり、彗星が残した塵の帯(ダストトレイル)と地球が重なるとき、大量の塵が地球の大気に侵入し、大量の流星を発生させることになります。
これが流星群という現象です。
彗星の輝きは短い間です。
輝きを失った後は、消えてなくなるか、遥か彼方へ新たな旅に出るか――もしくは、また舞い戻ってくる場合もあります。
しかし、その彗星が歩んできた軌跡と人々が出会ったとき、再び空は輝きで満たされるのです。
コメティックがどのように輝き、どのように燃え尽きるのかはまだわかりませんが。
彼女たちが自らの足跡を振り返ったとき、流星群のような新たな輝きに触れられることを祈っていようと思います。
彗星の軌跡[ストーリー]が示すのは、闇か光か、はたまた――
この答えが光でありますように。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?