
自治寮ってどんな場所?京大吉田寮編
大学の友人が学生マンションに住んでいる。民間企業が運営しており、サービスは充実しているそうだ。一人暮らしが基本で、Wi-Fi無料、門限なし、共有スペースの掃除は必要なく、食堂で朝晩の食事が出て、部屋に人を(比較的)自由に招ける等の利点がある。とても快適な空間に違いない。(私は一人暮らしなので、自炊がめんどくさい。)
一方、大学寮には自治寮と呼ばれる所がある。学生自身で規則を作り、入寮者や建物を管理し運営を行っている寮だ。その生活の実態を知るべく、京大の二大自治寮、吉田寮と熊野寮を見学させていただいた。本記事では吉田寮を紹介する。
吉田寮

吉田寮舎内は撮影禁止ということだったので、想像を膨らませ記事を読んでいただきたい。写真右手の建物が新寮舎。多くの寮生はここに住んでいる。中央にある古い建物が旧寮舎。ここが、吉田寮の注目スポットだ。なんと築100年以上の木造である。老朽化に伴い大学から学生の退去が求められているが学生側は反発し、現在係争中だ。今回はこの旧寮舎を見学させていただいた。左手の建物は食堂だ。私が訪れた時は会議が行われていた。
旧寮舎入り口
まず驚かされたのは、玄関入って正面に置かれたこたつだ。ゆっくりしていきなさいという具合にそこにある。受付の学生が暖を取っていた。初めて旧寮舎を訪れた人は、このスタイルにびっくりするだろう。旧寮舎を普段から出入りする人は、慣れてしまえばとくに気にならないのかも知れない。私が見学に来たことを伝えると、受付の方が玄関に併設された部屋(おそらくこっちが本来の受付)に入り、館内放送で「えー、見学の方が来ています。担当の方は受付までお願いします。」と呼びかけた。
基本的に共有スペースの廊下などは土足らしい。玄関から奥の廊下まで、様々なチラシが張り巡らされていた。イベントの呼びかけ、政治的な主張、落書き?等々。こうしたものは誰かに許可を取るでもなく、自由に貼られているという。間もなく、案内してくださる方が来て吉田寮の見学が始まった。
旧寮舎の構造
旧寮舎はフォーク型「ー€」の構造をしている。「ー」の部分は写真で紹介した食堂である。食堂を進むと玄関に面する廊下に垂直にぶつかり、そこからフォークの先端へ。三つの廊下に分かれている。この部分に各人の部屋や談話室が設けられている。入寮した1年生は、最初に4人ほどの相部屋に住むことになる。この部屋にはプラごみや木片がけっこう落ちており、二段ベッドはあるものの毛布が床に転がっている。そこには人が寝ていた。他にはテレビや石油ストーブが置いてあり、生活感のある風景に魅入られた。
共有部分の廊下には古い雑誌や洗剤の容器が並べられ、炊事場には使い終わったお皿が積まれていた。普段の暮らしが連想され親近感を覚えた。ところどころ、窓ガラスが割れてたり、廊下の壁に穴が空いており外の光が差し込んでいた。築100年以上経つのだから多少の不備は仕方がないが、設備の修理も自分たちで行うのだろうか。共有スペースのソファでは、中年男性が寝ていたり、中庭では鶏が放し飼いされており、自治寮への理解より謎が深まった。
旧寮舎は年季の入った木造ということもあり、全体的に暗い印象を受けたが、その中に学生の生命感が顕在していた。古書の香りも漂い、長い歴史を感じられるロマンティックな場所だ。「こんな所で大学生活を送れたら…」と憧れずにはいられなかった。
裁判の行方
京都大学は吉田寮旧寮舎の老朽化に伴い、居住している寮生に退去を求めて裁判を起こした。大きな地震が起きた際に建物が倒壊する恐れがあるという。裁判の結果、寮生側が一部勝訴し14名が入居の継続を認められた。しかし、実際には、今も何十人もの学生が吉田寮に暮らしている。寮生側は14名という少ない人数しか居住が認められていない点を問題視し、控訴。大学側も同じく控訴している状況である。
災害時に備え、防災対策は当然必要だ。寮生の安全管理を行うのも寮生であるが、大がかりな建物の改修は難しいため、その予算を大学側に求めた経緯がある。その予算交渉が決裂し、退去をめぐる訴訟に発展したということだ。
同敷地内に新寮舎も建設され、旧寮舎を退去しても代替の居場所がある。ただし、大学による管理環境下に置かれるため、リゾーム型のコミュニティは生まれにくい。この点を寮を案内してくださった方は懸念していた。
見学を通して、仮に旧寮舎に住み続けるにも、建物の改修は必要であると感じた。裁判では寮の明け渡しが論点になっているが、先ず大切なのは、寮生の身の安全をどう確保するかということだ。何より命である。今後、旧寮舎の改修の目処が立てば状況は好転すると思うが、中々難しいのだろうか。
見学終了
見学が終わり、担当してくださった方、受付の方に感謝を伝えた。京大にはもう一つ有名な自治寮、熊野寮がある。そっちには行かないのか?と聞かれ、その予定はなかったことを伝えると「わざわざ東京から来たんやし、行ったほうがええと思います。」と熊野寮までの道順を親切に教えてくれた。京都の方言?を聞けたことに心がときめいた。(と云うのも、宿泊したドミトリーが外国人観光客向けの所で英語が共通語だった。ここは本当に京都なのかと頭が混乱していたこともあり益々感動。)
そして、そのまま流れで熊野寮に向かうことになった。
吉田寮の皆さん。お忙しいところ、丁寧にご対応いただき本当にありがとうございました🙇