【開催報告】ボランティアセンター設立20周年記念公開シンポジウム「失敗する力~私たちにはどんな失敗が必要なのか~」/池上彰さん
6月9日(金)に、ボランティアセンター設立20周年記念公開シンポジウム「失敗する力~私たちにはどんな失敗が必要なのか~」を開催しました。
大変たくさんの方にご関心をお寄せいただき、金曜日の夜にもかかわらず、定員500名の会場が満席となりました。池上彰さんといえば、主に政治や国際情勢等について解説されているお姿をイメージされる方も多いと思いますが、そんな池上さんが、“失敗する力”についてお話しされるということで、事前にたくさんのご質問をいただきました。
当日は、立教大学総長、理事長も会場にお聞きに見えました。そして、講演会に先立ち、まず大学ボランティアセンター長の中川チャプレンからご挨拶があり、池上彰さんの基調講演が行われました。その後は、池上さんとのトークセッション中で、ボランティア活動をおこなっている本学学生2名と本学ボランティアコーディネーター1名が、それぞれの活動の中で直面した困難、それを乗り越えた経験で見えてきたもの等について語り、“失敗する力”について、会場の皆さんとともに考える時間となりました。
「事前の質問で、私の失敗談を聞きたいという声が随分あったようですが、この講演を引き受けてしまったことが一番の失敗だったと、今は思っています。ここで失敗について語らなければならない状況に自分を追い込んでしまいました。」という池上さんの冒頭のお言葉に、会場の皆さんが前のめりに…。
当日会場では、今となっては、面白おかしく話してネタの提供となっているというご自身の失敗談や、「え!?あの池上さんが?」と思うようなこの場限りのお話に、時々笑い声が混じりながらも、真剣に耳を傾けご参加されている皆さんの姿がありました。
―― 一歩踏み出すことができず、失敗を恐れて前に進むことができません。どうしたらよいでしょうか?
人生は生きていかなければいけない。イヤイヤでも一歩前に踏み出さなければいけない。その結果、失敗してしまう…でも、それで成長したということが、いくらでもあり、誰だって失敗するのは当たり前で、それを居直れるかどうかなのです。
「私にも初々しい時代があり、昔はとても繊細でした。」という、池上さん。
当日は、個人的な失敗談や、そのことを貴重な経験として学びに変えて、次のステップとされたという数々のエピソードをお聞きしました。
運転免許学科試験でまさかの不合格となった過去、生中継でのハプニング、フリーランスになる決意に至ったこと、人生を大きく変えるきっかけとなったこと…等々、失敗や挑戦などの様々な経験を繰り返すことで、少しくらいのことは失敗じゃない!と度胸がつき、同じようなことが起こった時に対処できるようになっていったそうです。
一歩踏み出さなければ、それっきり
フリーランスとなり、大きなチャンスが訪れた時のことを振り返り、ある仕事について「あの時、私にはできません…。」と断っていたら、それっきりだったというお話がありました。
その時、「でも、やってみてもいいんじゃないか。」「これはおもしろいんじゃないか。」と、新しいことに一歩踏み出し、「失敗してもかまわない」と居直り行動したことが、今に繋がっているそうです。
踏み出してみて、はじめて、失敗することも成功することもあると知り、それがすべて経験値となる。失敗を積み重ねることによって自分が成長し、成長することで、人の痛みもわかり、謙虚になったと。
池上さんのお話をお聞きしながら、いつも「できない理由ではなく、やりたい理由!」と言って行動している学生の姿と重なりました。
また、失敗しても、周りの人は案外気にしていないもの。失敗したところで、そこで人生が終わりになるわけではないというお言葉も印象的でした。
だから、「今は、失敗するかもしれませんし、これから失敗するかもしれませんが、何十年後かに、いずれ笑い話になるんだという想いを持ってほしいです。」と笑顔でおっしゃる池上さんに、そっと背中を押されて一歩踏み出した人も多いのではないでしょうか。
講演では本当にたくさんのお話を伺いました。
今の池上さんからは想像できない数々のエピソード、でも、その様々な選択や行動や失敗、そしてまた行動…と繰り返されてきた一つ一つの要素が、今の池上さんに繋がっているのだと感じました。
「ジャーナリストの池上彰氏」ではなく、「とても人間的な池上彰さん」の魅力あふれる素顔の一面に触れることができ、このようなシンポジウムを開催できて本当にうれしく思いました。
大変お忙しい中、本講演をお引き受けくださった池上さん、ご参加いただいた皆さんに心より感謝申し上げます。
シンポジウムの冒頭にボランティアセンター長・中川チャプレンもお話しされていたように、今の社会は時間をかけて結論を出すことをなかなか許してくれませんが、生き方や在り方を考えるためには時間が必要なものです。
私たちはこれからも、ボランティアセンターとして、時には立ち止まって一歩踏み出し様々なことを経験していく学生を多く育て支えていきたいと思います。
そして、学生が安心して自らの失敗を語ることのできる場になれればと願っています。
第2部 トークセッション
第2部では、池上さんが進行役となり、ボランティア活動に関わる2名の立教生(細野さん、中村さん)と齋藤コーディネーターが登壇してトークセッションを行い、その後会場の皆さんとの質疑応答時間へと続きました。
3名それぞれが、これまでボランティア活動で経験したことに触れ、活動で陥りがちなこと、活動を通じて感じたこと・学んだこと・成長したこと、さらには自身の在り方について、話題が展開しました。
大切なのは聴く力、社会で活きる人間力
細野さん、齋藤コーディネーターから、
「今は、SNS等の影響もあり、いろいろと話したり発信したりすることがすごいとかコミュニケーション能力があるように言われがちですが、ボランティアにとって一番大切なことは、聴く能力なのかもしれないと思いました。」
「自分が自分でいられるような環境を選んでいくことは大切で、現場に出ていくうちに、自分の中で大切にしたいこともわかってきますし、そのような経験を積み重ねることで、自信もついてきます。」という発言があり、
それに対して池上さんからは、
「ボランティアの現場で、人と関わり時には失敗もしながら、チームの作り方や組織を動かす力等、これから社会に出てもずっと役立つようなコミュニケーション能力が高められていくのでしょうね。」
「(ボランティア活動での経験が)みんな成長につながっているんだよね。」というフィードバックがありました。
卒業していった学生たち、あるいは、日頃ボランティアセンターに来る学生のみなさんと話をしていて、私たちスタッフも同じように感じています。
登壇者よりメッセージ
最後に、登壇者より次のようなメッセージが伝えられました。
細野さん:私が今日ここで伝えたかったことは「モヤモヤした問い」についてです。「モヤモヤした問い」を抱えて自分なりに考えることが、次の行動につながると思います。
中村さん:今日は何かを伝えられたらと思い登壇しましたが、質問に答えたりしていく中で、自分も考えさせられるような瞬間が何度かありました。今日ご参加いただいた皆さんの背中を少しでも押せるような会になっていたらと思います。
齋藤コーディネーター:ボランティア活動の可能性の中には、目先のもので楽しいと感じる以上に、一歩先に踏み込んだ時に、モヤモヤしたり失敗したりという経験をします。だからこそ、いろいろな人とつながることができて、自分とも向き合い、その先に面白さがあります。そこに辿り着くには何らかの挑戦が必要ですが、そのように自分の想いをカタチにしたいと思った時に、ぜひボランティアセンターに来ていただけるとうれしいです。
池上さん:学生時代は、グズグズしたり悩んだり、失敗しても「学生だからできない」と言って周りにも助けてもらえるといういい位置にいます。また、ボランティアの現場に行くと、どこかに所属している「○○大学の△△さん」ではなく、1人の人間として評価してもらうことができる、ボランティア活動はそのような絶好のチャンスになります。ぜひそういうことを知っておいていただければと思います。
“失敗する力”から
時々、絶妙なタイミングで投げかけられる池上さんの問いかけは、とてもシンプルな一言でありながら、グッと心にささるものばかりでした。基調講演に続き、会場は魔法をかけられたように、モヤモヤが、すーーっとクリアになっていくような空気に包まれ、池上さんの見事なファシリテーションに、ただただ感動することしきりでした。
失敗して恥ずかしいと思ったり落ち込むのではなく、そういうこともあると捉え、そこから何をいかに学ぶのか…。いろいろなことを試して失敗するからこそ、その状況が改善した時に心から喜ぶことができるのかもしれません。
私たちは、これから、失敗の先にあるものを探して、もっとのびのびと好奇心全開で新しいことにチャレンジできそうです!
ありがとうございました!!