Dolce far niente(ドルチェファールニエンテ)@鎌倉 緒方雄正さん(平4観)
鎌倉・小町通りにお店を構え、鎌倉野菜を使ったイタリアンとこだわりのエスプレッソを楽しめる“Dolce far niente”(ドルチェ ファール ニエンテ)。店名はイタリアの慣用句で、“甘美なる無為”。何にもしないで、のんびり、ゆっくりした時間を過ごすことこそが“Dolce Vita“(ドルチェヴィータ)「甘い生活」である。という意味です。この店名には、お客様にそのような時間を提供したいという緒方雄正さん(平4観)の思いが込められています。
ーよく分からないから入学した観光学科ー
立教大学を受験し、複数学科に合格した緒方さん。その中でもなぜ、観光学科を選択したのだろうか。
「観光学科は、何をやるのかよく分からなかった。だからこそ、魅力を感じた。」
ドロップアウト願望が常にあり、人と違ったことがしたいと思っていたそう。観光学科への入学は、その思いを叶える1歩と考えたのだ。
大学時代の講義で、今も大きな影響を受けているのは原勉先生の「サービス概論」。“サービス”に対して、受講前後では捉え方が大きく変わる授業であった。また、ひとえに“サービス”と言ってもその中身は奥深く、面白さを感じたという。
ー飲食業の魅力を知ったバイト生活ー
多くの飲食店アルバイトも経験した。初めてバイトをしたチェーン店の店長は、以前は高級フレンチに勤めていた方だった。質の高いサービスを知る店長のもとで働くことで、サービスの奥深さを授業だけでなく、身をもって学んだ。また、立教OBのオーナーが経営されていた目白の「風見鶏」というお店でのアルバイトは、チェーン店の組織経営とはまた違った経営スタイルが面白かったという。就職活動が迫った時、飲食業を極めたいという気持ちを持ちつつも新卒で飲食業界に飛び込むイメージが持てなかったと当時を振り返った。
ーお客様と深いやりとりが出来るサービスにやりがいをー
就職活動で、ご縁があった「銀座 和光」。“サービス”の提供レベルの高さに惹かれて入社し、配属されたのは宝飾品売場。一つとして、同じものがない宝石を長時間に渡るお客様とのやりとりを通して売る。この、お客様と深く関わる接客に対して魅力を感じたそうだ。約1年半後に室内用品売場へ異動し、その後は法人外商などを経験。しかし、宝飾品売場のようなお客様と深く関われる機会は少なくなってしまった。
「決定的だと思うのだけれど、ブランド品や高級品にあまり興味がなかった。高級な腕時計を扱うより、飲食のような人間味に溢れるものを提供する方が自分は向いているという想いがふつふつと湧いてきた。」
また、子供が生まれたことをきっかけに自分の今の背中を子供に見せられないという思いもあり、緒方さんは退職を決意した。
ーエスプレッソマシンの前では、主役になれるー
退職後、簿記の勉強やイタリア料理店でのバイトを通して開業の準備をし、2004年にお店をオープンした。お店の場所は偶然紹介された鎌倉の物件。当初は都内を想定していたが、店内の天井の高さに惹かれて決めた。また、鎌倉に住む人々はローカリズムが強く、よく旅行で訪れたイタリアと似ていて面白いそうだ。
自身のお店を開く上で、自分は料理人ではないと割り切って料理は奥様や従業員に任せているという緒方さんだが、サービスとエスプレッソへのこだわりは負けないという思いがあった。エスプレッソメーカーは昔から自宅にあったそうで、イタリア旅行で本場の味を知って以来、より愛着や特別な思いを持っていた。緒方さんにとって、エスプレッソを淹れる瞬間は自身以外は誰も感じず、マシンに対峙する自分のみが主役になった気分になるのだそうだ。実際に、エスプレッソを作る様子を見させて頂いた。取材中の穏やかな雰囲気から一転、真剣な面持ちでコーヒー粉に圧力をかけるタンピングなどの作業を行う姿からは緒方さんのエスプレッソへの強いこだわりと愛を感じた。
より深い味わいを求めて
「濃厚なものを抽出できるように調整しているんです」と緒方さん
エスプレッソに少量のフォームドミルクを入れたマッキャートは、
砂糖を1.5杯ほど入れるのが本場流。
ミルクチョコレートのような風味がたまらない一杯に
鎌倉野菜たっぷりのランチプレート
また、自営業だからこその魅力として、自身の創意工夫がダイレクトにお客様からの反応として返ってくることを挙げた。それこそ、緒方さんが望んだ人間味溢れる働き方なのだろう。また、仕事のメリハリを自身で自由にコントロール出来ることを生かし、2週間スペイン旅行に行くこともあった。そして、そのような旅行をヒントに「PANDA BAR(パンダバル)」というスペインの生ビールやワイン、タパスを楽しむことが出来る店舗を2012年に開業している。こちらは小町通りよりもローカルな雰囲気が漂う御成通りに位置し、旅行を通して感じたスペインのお店の雰囲気や飲む楽しさを表現した店舗となっている。
緒方さんいわく「最高の飲み歩きができる国」・スペインを表現した
カジュアルなバル
緒方さんの奥様が作るピンチョスをおつまみに飲めば会話も弾む
ーより魅力あふれるお店にー
最後に今後の展望についてお伺いした。「今後、15年は現役でお店をやっていきたい、しかし自分の子供たちが店を継いでくれるかは分からない。だからこそ、今後は子供たちが継ぎたいと思ってくれるくらい素敵な店舗にしていきたい」と語った。
緒方さんの穏やかな雰囲気と重なる温かみのある店内、そして強いこだわりが詰まったエスプレッソを是非、実際に足を運びお楽しみください。
(学生ライター:筑波まりもさん / 学生カメラマン:上田汐さん)
●Dolce far niente (ドルチェファールニエンテ)
〒248-0005 神奈川県鎌倉市雪ノ下1丁目5−34
●PANDA BAR(パンダバル)
〒248-0012 神奈川県鎌倉市御成町5−41