あんみつ みはし@上野 佐藤一也さん(昭52産)
戦後の混乱が残る1948年、上野公園前に創業した「あんみつ みはし」。店主の佐藤一也さん(昭52産)に大学時代のエピソードとお店について伺いました。
―型にとらわれず、探究し続けた―
佐藤さんは幼少期から何かの本質を知ることに興味を持っていたらしい。身の回りにあるものやおもちゃを分解したりなど、少しヤンチャな幼少期を過ごしてきたような印象を受けた。高校卒業後は立教大学社会学部産業関係学科に進学した。在学中は、友人と過ごす時間を何よりも大切にしていたと仰っていた。佐藤さんは持ち前の親しみやすい人柄から友人に恵まれており、学生生活を謳歌していたようだ。卒業後の就職先はコンピュータを販売する会社、理工学の勉強をしたことも無い佐藤さんであったが、持ち前の「探究心」がその仕事に取り組む活力になっていたと話した。5年間勤めた後に、あんみつみはし創業者の一人である父が重病だとわかった。お店を継ぐことが両親への最大の恩返しと感じた佐藤さんは家業を継ぐことを決心した。
「探究(explore)」という言葉が好きだと語る佐藤さん
―変わらないことを望むお客様、変わることを進化とする価値観とのせめぎ合い―
歴史ある仕事を受け継ぐことで、佐藤さんが抱える責任感は計り知れない。現在まで46年間、代表取締役としてどのように会社を守ってきたのかを伺った。すると、佐藤さんは「変わらないことを望むお客様と、変わることを進化とする価値観とのせめぎ合い」だったと語った。変化は進化と捉える価値観がひろがる現代社会で、変わらない味を提供するということは時代の流れに逆らうと言えるのかもしれない。しかし、あんみつみはしの常連のお客さんは「変わらないあの味」を求めていると佐藤さんは説明した。みはしのあんみつは特別なのだ。
一方で、代々伝わるあんみつの味や形を変えずに提供し続けることは非常に難しいことだと佐藤さんはいう。原材料である小豆や米は収穫年ごとに味が微妙に変わり、また時代と共に品種や栽培方法も変化しているからだ。そこで、昔ながらの味を保つために、どのような工夫をされているのか、とお聞きした。すると、商品の安心・安全を確保するために、品質管理部を設定したという。この部署は定期的な食品検査の実施や原材料を生産する方々との密なコミュニケーションを実施することで、商品の質を落とさないことを目的としているそうだ。みはしのあんみつは材料のほとんどが国産であり、農家の方々との情報交換を行うことで、働く人や作物への思い入れが強くなったと語った。「農業や漁業を担う人がいるからこそ、我々が商売をすることができる」と佐藤さんは感謝の念を口にした。
また、会社経営を行う上で、CSR(企業の社会的責任)に重点をおいている。各々の素材の原産地を提示することが例としてあげられる。他の飲食店では、食材全ての原産地を明記することはあまり無い。そのようにして、お客さんに安心・安全を届けているのだ。素材への熱い思いが、あんみつみはしの柱を支えているのではないだろうか。新商品開発に注力するのではなく、時代に合わせて昔ながらの味を守り続けるという経営理念がしみじみと伝わってきた。
みはしのあんみつは農業や漁業に支えられている
―コロナ禍での奮闘―
パンデミック―2020年3月から日本中が混乱の渦に巻き込まれた。全ての業種また学生までもが普段通りに生活することができなくなった。観光地の上野にお店を構えるあんみつみはしも大打撃を受けた。佐藤さんは「創業以来、最大の危機だった」と苦しい状況を明かした。主な顧客層が年配の方ということもあり、昨年の売り上げは激減したという。しかしながら、このような苦境をプラスに捉えたのが佐藤さんである。顔を合わせて会うことが厳しい状況だからこそ、「人と人の繋がりを大切にする」仕組みが必要だと考えた。外出自粛が続く中で、より多くの人にあんみつを食べてもらうために、店舗以外での販売にも注力したそうだ。たとえばホームページの改良を行い、より気軽にオンラインショッピングができるようにした。さらに、地方の百貨店やスーパーでもあんみつを販売し、お客さんに家で楽しんでもらったと明るく話していた。
従来のテイクアウト販売に加えて、オンライン販売や催事出店にも注力
筆者は、あんみつみはしがウーバーイーツなどの民間宅配サービスに消極的な理由、を伺った。すると、佐藤さんは民間の配達員に商品を依頼することで、商品の質の劣化を懸念していると話した。お客様には満足していただける商品のみを口にして欲しいという、佐藤さんの願いであった。そこで、佐藤さんは台東区と協力して、商店街を盛り上げることはできないかと考えた。結果的に、産業振興財団からの支援を受けて、上野Eatデリバリーという宅配サービス(※)を独自に開始することができたのだ(※現在は終了しています)。
佐藤さんは、顧客のみでなく社員の方々も大切にしていた。コロナ禍で職場と疎遠になっていた社員がいることを汲み取った佐藤さんは、「社長メッセージ」と題した、ウィークリーブログを始めた。現状や心情を社員に直接伝えることで、繋がりを大事にする仕組み作りを行っていた。現在、このブログは約60号にも及ぶという。佐藤さんは、このパンデミックによって「人と人との繋がりで社会は成り立っている」ことを再確認し、その繋がりを守るために具体的なアクションを実行することができたと話した。
上野本店前にて
―最後に―
このような佐藤さんの社交的で優しい人柄が、伝統のあるお店の経営を飛躍させていると感じた。先代から受け継いできたものを柱として、現代社会に適応していく姿は「探究心」をもつ佐藤さんだから成し遂げることができたのだろう。
学生との3ショット
左:前田凜之介さん(学生カメラマン)
中央:佐藤一也さん
右:染谷慎之介さん(学生ライター)
あんみつ みはし(〒110-0005 東京都台東区上野4丁目9−7)