【心理学論文33】脳波データはいじりすぎるな
ちょっと専門的だけど、前回に引き続き生体指標のお話。
脳波のデータを解析する前に、信号をきれいにするための前処理は不可欠だと考えられていて大抵の論文では「こーゆー前処理しましたぜ」という記述がある。しかし、Delorme(2023)の研究では、過剰なデータ処理が統計的パワーを低下させることが示されている。
ここで言う「悪影響」とは、データの統計的パワー(効果の検出力)が低下し、本来あるべき信号が弱められたり、見落とされたりすることを指す。特に、実験の有意性が失われる、偽陰性(本当は有意差があるのに差が検出されない)、信号の歪曲などのリスクが挙げられている。
研究では、視覚・聴覚刺激課題の複数のデータセットを用いて検証が行われた。その結果、独立主成分分析(眼球運動や筋活動のノイズを除去するための一般的手法)など手法がデータの質を下げる可能性が示された。
一方で、高域通過フィルタ(0.5Hz)とノイズチャンネルの補間は、データの信頼性を保つ上で有効であることが確認された。
つまり「データをきれいにするための処理が、信頼性を損ねる可能性がある」ということ。脳波を指標として使う場合は、必要最小限の前処理にとどめることが求められている?
Delorme, A. (2023). EEG is better left alone: Overprocessing reduces statistical power in ERP studies. Scientific Reports, 13(1), 27528.