【心理学論文23】持たざる者ほど与えやすい?の再現性

これまでの研究では、社会経済的地位(SES)が人々の行動や態度に影響を与えることが示されてきた。例えば、SESの低い人は日常の課題や困難に集中しやすく、将来の計画や長期的な視野を軽視する傾向があるが、他者に対して共感性が高く資源を分配しやすいことが示唆されている。
こうした背景から、SESの違いが利他行動(寄付、信頼、協力など)にどのように関係しているのかが注目されている。これは前回の記事でも触れた。

この論文では、SESと利他行動の関係を明らかにするため、2つの高精度な再現研究を実施している。この研究では、前回の記事でもとりあげたPiffら(2010)の研究を再現し、SESと利他行動の関連性を検証している。具体的には、以下の2つの再現研究を行った。

研究1:
カリフォルニア大学バークレー校で行われたPiffらの研究をもとに、スタンフォード大学でSESを測定し、独裁者ゲーム(dictator game)での行動を記録した。このゲームでは、参加者が他者に分け与える金額を自由に決定でき、その金額が利他性の指標として用いられる​。
研究の結果、研究1では、SESと独裁者ゲームでの分配行動の間に有意な関連は見られなかった。SESの高い人が利他的な行動を控えるというPiffらの結果は再現されなかった​。

研究2:
ベルギーの大学生を対象に、SESの主観的評価を操作する実験を行った。具体的には、参加者に「自分を社会階層の上位または下位にいる」と想像させるタスクを与え、その後、寄付の割合を尋ねた。
研究の結果、研究2では、SESを主観的に高く評価するよう操作された参加者が、寄付を多くすべきだと考える傾向が見られた。この結果はPiffらの研究結果とは逆であった​。


2つの研究を通じて、SESと利他行動の間には有意な負の相関がないことが確認された。さらに、Piffらが報告した効果量(r = -0.23)を超える結果は得られなかった​。この再現研究は、SESが利他行動に及ぼす影響が一般化可能ではないことを示している。

再現性問題については、各研究で用いられている指標が統一されていないのが問題なんじゃね?という意見もあり(Antonoplis, 2023)、この辺の整備から組み立てていく必要がありそう。この意見論文も最近出たばっかりなので、心理学におけるSESに関する研究はほんとうにこれからっすよねーってという印象。

Antonoplis, S. (2023). Studying socioeconomic status: Conceptual problems and an alternative path forward. Perspectives on Psychological Science, 18(2), 275-292.

Stamos, A., Lange, F., Huang, S.-c., & Dewitte, S. (2020). Having less, giving more? Two preregistered replications of the relationship between social class and prosocial behavior. Journal of Research in Personality, 84, 103902. https://doi.org/10.1016/j.jrp.2019.103902


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