【心理学論文39】社会経済的地位に関する心理学研究をするためには......。
最近自分の中でホットな話題なので、またSESの論文に戻ってきちゃった。
心理学におけるSES研究は大きな課題に直面している。
SESとは何を指し、どのように測定すればよいのかという基本的な問題が解決されていないのである。
Antonoplis(2023)は、過去20年間のSES研究を振り返り、大きな問題点を指摘している。研究の約8割でSESの定義が明確にされておらず、測定方法もバラバラである。たとえば、SESを測る指標は、収入、教育、職業など147種類も存在する。そのため、研究間で矛盾した結果が出ることが多いとされる。
たとえば、「高所得者は共感性が低い」と結論づけた研究がある一方、「高所得者は共感性が高い」ことを示す研究もある。このように、一貫性がないことがSES研究の信頼性を損ねているわけだが、その原因の一つとして指標の乱立が問題なんじゃないか、というわけだ。
著者はSESという大きな枠組みを使う代わりに、収入や学歴など「社会経済的条件」を個別に研究する方法を提案している。
SESを1つの指標として捉えるのではなく、それを構成する要素を独立して研究することで、より具体的で正確な結論が得られるという考え方だ。
たとえば、「"収入"が健康にどう影響するか」や「"学歴"が心理的な成果にどうつながるか」といった個別のテーマに焦点を当てることで、SES全体を測ろうとする従来の方法よりも明確な結果を得られる。
要は、多様な指標を一緒くたにして「SES」と呼ぶから混乱するのだ、ということだろうか。(当然といえば当然の気がするんですが……。)
このような指標乱立の原因は何だろうか。
先行研究と同じ指標を使用することを徹底すれば、このような指標の乱立は防げたのではないだろうか。
ずっと先行研究で使用されているような「伝統的な」指標だけでなく、新たに作成した指標を「保険」として複数測定し、その中から分析段階で統計的に有意な結果が得られた指標だけを公表している可能性があるかもしれない。
伝統的な指標の結果が都合悪ければそれを隠して、新たに作成した指標の結果の都合が良ければその結果を公表すればいい。
……っていう構造的な問題が無いといいんだけど。
Antonoplis, S. (2023). Studying socioeconomic status: Conceptual problems and an alternative path forward. Perspectives on Psychological Science, 18(2), 275–292.