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植物の「抵抗性」とは何か

植物が病気や害虫に強いことを「抵抗性が強い」と表現します。この「抵抗性」は単一の機能ではなく、化学物質を合成したり、組織や表面の形を変えたりと、さまざまな機能が組み合わされています。どんな病気や害虫にも効果のある万能な抵抗性は存在しません。例えば、菌やウイルスによる病気に強いからといって、虫がつきにくいわけではありません。植物は、動けないからこそ多様な対策を講じて病気や害虫に対応しています。
植物の「抵抗性」は、植物を害そうとする敵それぞれに特化した武器であるため、時には的を外してしまうこともあります。その一端を垣間見せる興味深い研究がありました。

ダニに強い品種のトウモロコシに巣食う特異的ダニの存在

ダニは多くの作物に被害をもたらす厄介者ですが、ダニに抵抗性のあるトウモロコシ品種が作出され、産業品種として欠かせない存在です。その品種はB75とB96と呼ばれています。この2品種は「ナミハダニ (Tetranychus urticae)」に対して抵抗性があり、食害や繁殖を抑制することが確認されています。
しかし、このB75とB96の抵抗性をものともしない別のダニが存在します。それが「バンクスグラスダニ (Oligonychus pratensis)」です。バンクスグラスダニは抵抗性のあるトウモロコシの葉をモリモリ食べ、巣を作り、繁殖することが可能です。一方で、このバンクスグラスダニはトウモロコシのような一部のイネ科にしか付かないことも分かっています。バンクスグラスダニは、宿主を一部のイネ科に特定することで、他のダニに抵抗性を示す環境でも生きていける力を手に入れた特異的なダニと考えられています。

なぜダニに強いトウモロコシは「特定のダニ」に弱いのか?

B75とB96の抵抗性の要因は、「DIMBOA」と呼ばれる抗生物質を作り出すことです。この抗生物質は、ダニだけでなく、蛾などの他の害虫の生育も抑制することが分かっています。この抗生物質を合成できるため、B75とB96はナミハダニに対して抵抗性を示しました。
しかし、バンクスグラスダニは、この抗生物質の影響を受けないよう進化したと考えられます。そのため、B75とB96はバンクスグラスダニや同様の特性を持つ他の害虫には弱いのです。
多くの作物に対して害をもたらすナミハダニのような「ジェネラリスト」に対抗するために抵抗性を進化させたものの、イネ科への特異性を極めたバンクスグラスダニのような「スペシャリスト」には対抗手段を持っていないのです。

常に新しい「抵抗性」を提供できる「ライブラリ」が重要

イネ科のスペシャリストであるバンクスグラスダニに対抗するためには、B75とB96が持つ「DIMBOA」のような抗生物質だけでは不十分です。バンクスグラスダニ耐性のトウモロコシを作るためには、他の抵抗性を考える必要があります。例えば、ダニがつきにくい体表面を持つようにしたり、ダニが嫌う物質を作ったりすることです。自然界ではこのような進化には途方もない時間がかかりますが、人類は品種改良でそれを実現することができます。そのためには、さまざまな抵抗性をすでに持った品種ライブラリが重要です。例えば、味は劣るが虫に強い、大きな実はならないが病気に強い、といった品種は品種改良の際に有用な材料です。気候変動やグローバル化の影響で、将来どんな病気や虫害が発生するかわかりません。さまざまな状況に対応できる「抵抗性ライブラリ」を持つことは、非常に重要だと言えるでしょう。

育種で「抵抗性」を積み重ねる

私たちが普段利用している作物は、抵抗性の集大成といえるかもしれません。自然界での進化に加え、人類が行った育種により、さまざまな抵抗性が1つの品種に集約されています。これほど効率的な進化は自然界では行えないでしょう。一方で、野生種よりも水や肥料を多く必要とし、人の手がないと育たない品種も存在し、それがビジネスとして成功しているのも感慨深いですね。
農業技術の進化により、対策が不要となった病気も存在し、昔の品種より一部の抵抗性が低下した例もあります。たとえば、イチゴは土壌殺菌により病原を断つことが可能となったため、現在の品種は抵抗性が低いという例があります。
常に変化する「抵抗性ニーズ」に対応していると考えると、品種改良も産業のトレンドと同様ですね。育種に終わりはなく、将来を見据えた育種が重要です。
将来、どんな抵抗性を持った品種が作られるのか、興味が尽きませんね。

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