えぷろん
昨夜は早寝をして、とにかく寝てやる、と意気込んだ。
夢の中のことはあまりツブサに覚えてはいないのだけど、わたしはオットの実家にいて、そこには当たり前のようにオットとわたしとムスメがいて、オットの兄の家族がいて、お母さんがいつものようにエプロンをしてニコニコしていた。お母さんは、「エプロンをしてないと落ち着かんのよ」と言っていた。
薄いグリーンのエプロンは、お気に入りだったので何年も使っていた。「ほら見て、ここ、穴が空いたとよ」と小さなほころびを見せてくれたことがある。「それでももったいなくて捨てられんのよ〜」と笑っていた。
部屋はクリーム色に光っていて、温かい空気に満ちていた。「鍋でもするかね?」とお母さんが言い、兄が「なんでもいいよー」と答えた。みんなが笑っていた。わたしはすごくハッピーな気持ちで、「お母さん、すごく元気そうですね」と声をかけた。お母さんは「そうなんよ。なんかすっかり元気になったとよ」と微笑んだ。わたしは心から嬉しくなって、ああよかったなあとしみじみ思った。お母さんが病気だったのは遠い昔のことに感じた。病気がすっかり治ったのだろう、と思った。
ムスメや甥はまだ小学生で、わたしたちが和やかに過ごしていることをお母さんは喜んでいるようだった。何も心配のない、幸せなひとときだった。
目が覚めてもそのハッピーな気持ちは余韻として残っていた。少しも淋しくなくて、ふんわりした気分で、まるでこれから遊園地かどこかに遊びにいくような感じだった。今が冬だということも忘れていた。
うー、寒い。そう思って冷え切った居間に入ったら、全部思い出した。そうだ。もう、お母さんはいないんだ。あのエプロンはお棺に入れた。オットが白装束の上から、まるでお母さんがいつも着ていた時のようにかけてあげたのだ。
オットが起きてきたので、「こんな夢を見たよ」と言ったら、「そりゃあよござんしたね」と表情一つ変えず、平坦な調子で言った。ごめん、わたしばっかり夢を見て。