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お金を数える

ムスメの部活の会計係になった。会計係は人生初チャレンジである。

子どもの頃からお金には縁がない。そのくせ家計簿はつけずどんぶり勘定で、出て行くものと入ってくるもののバランスが常にざっくりしている。今月はお金がない!と困ることも多いぶん、「お金ってありがたいなあ」と感じているのも事実だ。

わたしはお金がずっと怖かった。もちろん、いろんなことに使えるから、お金は欲しいと思う。ただ、人の心を動かすお金の力が怖いのだ。お金があったりなかったりで、人がこんなにも変わるものなのか、と思ったことが何度もあるからだ。だからなるべくお金の存在から遠いところにいたかった。

しかし、諸般の事情で他人のお金を預かる立場になったので、今度は常にお金のことを考える日々となった。うちのざっくり家計のやりくりとは違い、1円の狂いも許されないし、無駄な出費は批判される。だから、帳簿をつけてお金を数えるたびに、「あー、緊張するぅ」と、わざと声に出すことにしている。そうやって、自分に集中力と厳格さを呼び起こし、周囲に注意喚起をする。(大げさだが)

会計係は3人。まず一人が現金を数える。それを次々に別の人がチェックする。なのに、一度でピタリと勘定が合うことがない。おかしいな、と思ってみんなでお札を1枚ずつ数え直してみると、新券がぴったりとくっついていたり、1万円の束に5000円札が混じっていたりする。えー、あんなに数えたのに?と思うが、お札の数が多いので、ミスも致し方ない。それを何度も繰り返して、ようやく額が合う。ほとほと気疲れする。

だから間違いのないように集中したいのに、時々、妖怪『勘定狂わせ』が現れる。お金を数える集中力を途切れさせるために、ふと別のことを頭によぎらせたり、誰かに話しかけさせたりする。そんな妖怪がいるかどうかは知らないが、いつまでも勘定が合わないと、本当にそんな気がしてくる。

「手で数えるのがそんなに大変なら、ATMにお金を数えさせたらいいじゃない」と言う人がいた。あなたは何アントワネットですか。
もちろん事情を知らない彼女はわからなくて当然なのだが、集金は基本的に土曜日なのだ。土曜日のATMは、お札は数えるが、コインは数えない。しかも、入金してしまったら、当日の出納ができない。それは口座から引き出す時にかかる手数料を、集めたお金の性格上、使いたくないからだ。そもそも、仮払いで支出してくれた人に返金するため、現金を少し残して置かなければならないから、全部入金してしまう訳にはいかない。

先日、計算したら7000円が合わなかった。きっちりとした額だから、出納の金額とは違うはずだ。でも、どう数えても7000円多い。なんども数え直したのになぜ!!と、パニックになってしまった。会計のAさんが「一緒にゆっくり数えてみようよ」と言ってくれて、再度やり直した。それでも7000円多い。

しばらく悩んで、「あっ」わたしは思い当たった。小銭を用意するために、自宅の小銭貯金箱を全部ひっくり返して、100円玉と500円玉を部費の1000円札と両替したのだった。「それだ!」とAさんも叫んだ。やったー。二人で喜び合った。そして7000円という、わが家にとっては大金を「不明金」として部費の口座に入れずに済んだ。セーーーーフ。

わたしがそんな綱渡りをやっていることを、部員の保護者の99%は知らない。このまま知らせずに済むように、1年間頑張ろうと思う。

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