あっこちゃんと珍道中 ③ホテル
あっこちゃんとのイギリス旅行、久しぶりにいろんなことを思い出した。(多分、まだまだ書くと思います。すみません。)
わたしたちが泊まったのは、高級でもないが、安宿でもないフツーのホテル。ただ、嫌な予感がしたのは、異様に大きいということ。これは団体客が泊まるタイプのホテルだ。案の定、アメリカからやってきた修学旅行客が同じフロアに泊まっていた。
夜中に大声で歌うわ、壁を叩いて踊りまくるわ、辟易した。アルコールでも飲んでいるのかね、と思うようなどんちゃん騒ぎだ。あっこちゃんはフロントに電話してくれたが、一向に収まる気配もない。よく外国の映画で見るように、わたしは枕の下に潜って音を遮断しようとした。それが一日目。
二日目の夜、あっこちゃんから「荷物を片付けすぎじゃない?」と言われた。わたしが毎晩スーツケースの荷物を詰め直すのを見て、「チェックアウトの時でよくない?」と言ったのだ。しかしわたしは「荷物があとどれくらい入るか確かめないと、お土産を買い過ぎてしまうかもしれないし」と反論した。あっこちゃんは「まあ、好きにしたらいいけど」と笑った。
その夜中、妙な音で目が覚めた。あ、これは非常ベルだ、と思って窓の外を見た。反対側の棟の下の方が赤くぼんやり光っている。「あっこちゃん、起きて起きて!」と声をかけた。「どうしたの」と面倒くさそうに起きたあっこちゃんは、まず窓の外を見た。それから気ぜわしくノックされた部屋のドアを開けて廊下を見た。そこには大柄のガードマンがいて「急いで逃げてください」と落ち着いた声で言った。高校生たちが非常階段の方へ走っているのが見えた。
そこでわたしは、迅速にパジャマを着替え、上着をはおり、スーツケースを持って廊下に出た。あっこちゃんも無言のまま、サッと荷物をまとめて廊下へ。「走らないで!でも急いで!」というガードマンの声に押されながら、中庭に集められた。周囲を見たら、みんなパジャマや部屋着のままで、スリッパ履きだ。中には裸足の人もいる。そこにいた人たちは、こちらを見て「頭おかしいんじゃないの」という顔をした。わたしたちは、これから空港へ行きます、と言ってもいいくらいの様子でいたからだ。きちんと服を着て、靴を履き、スーツケースを傍に、貴重品の入ったショルダーバッグを斜めにかけていた。
それから1時間以上も外で待機させられたが、ボヤが収まったのか、やがて部屋に戻ってください、と知らせが来た。わたしたちは部屋に戻って、またパジャマに着替えて寝ることにした。あっこちゃんは「やっぱり、りかよんみたいに荷物を整理しとくべきだね」と笑った。
翌朝、あっこちゃんがフロントで「昨夜はなんだったんですか」と聞いたが、あっこちゃんをチラッと見るなり「わたしにはわかりません」の一点張りで相手にしてくれなかったらしい。わたしたちはまだ若く、アジア系の女の子が差別的な扱いを受けることも、割とよくあることだったと思う。
(つづく)
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