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落雁を食す。

お昼近くなって、お腹が空いてきた。わたしは、なにか食べようと思って棚を物色した。ビーフジャーキー以外は甘いものばかりだ。ビーフジャーキーは、オットが楽しみにしているだろうから、手が出せない。食べ物の恨みはオソロシイと知っている。そこで、甘いもののカゴを見てみた。先週末、義実家に帰った時、お義母さんが「お供え物、一人では食べきれんのよ。持って帰って〜」とじゃんじゃんレジ袋に詰めてくれた。仏壇に供えるお菓子は、一口羊羹、カラフルなゼリーに砂糖がまぶしてあるやつ、チョコレートのコーティングがしてあるクッキー、おせんべいなど、個包装で、お供えのお盆に乗せやすいものばかりだった。

「あ、落雁もあるよ」とお彼岸のお供えもおろしてくれた。実は、ムスメは落雁が好きなのだ。お盆やお彼岸にお供えする、あの、菊型や桃型の落雁。落雁のパックには小さな造花が一輪添えてあり、白の落雁には毒々しい色が吹き付けられている。お世辞にも美味しそうには見えないし、食べ物だと言われても、その石膏っぽい様子に「ほんと?」と疑ってしまうような感じのアレ。

ムスメに聞いてみたら、美味しいわけではないらしい。でも、なんとなく、好きなんだそうだ。その落雁を試すことにした。桃の形で、桃部分には激しめのピンク、葉っぱ部分には緑色の着色料が吹き付けられていて、その二色が混ざった部分は、ちょっとエグイ色合いだ。わたしは、その端っこをかじった。

文字通り、歯が立たなかった。前歯が折れるかと心配になったので、奥歯側で噛んでみた。歯がめり込む。落雁をギギギと圧縮しているのがわかるが、噛みきれない。わたしは落雁をひねった。湿気ているのだろう、じわじわと曲がりながらも、折れることはない。湿度が落雁の原料である米粉と砂糖に粘度を与えているのだ。なんとかちぎれた一片を口の中に収める。すると唾液をスッと吸い込んで、みるみるほぐれていく。砂で作ったお城が波に打たれて姿を消すように、あっという間にどろっとした塊になった。わたしはそれを噛む。じゃり、じゃり、じゃり、と音がする。溶けきれない砂糖と、目の荒い米粉のハーモニー。砂を噛む、という表現がこれほどぴったりな食べ物はないと思う。

わたしはあと少し、と思って食べ進んだが、ふた口目でギブアップした。いくら落雁が好きなムスメでも、おそらくこれはもう無理だ。

半年くらい前に、大麦粉を香ばしく炒って、和三盆糖で味付けした落雁を食べたことがある。友人が作ったものをおすそ分けしてもらったのだ。「おいしい!」と思わず声が出た。あの落雁をもう一度食べてみたい。

今は、目の前にある柔らかい石のような落雁をどうするか、悩んでいる。

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りかよん
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