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ないことと同じ

ずっと前、会社勤めをしていた時、先輩が言った。
「それを誰も見てなかったら、その出来事はないことと同じなんだよ」

意味がわからない。そこにあるものは、ある。そこで起きたことは、起きた。誰も見ていなくても、川は流れているし、木はそこに立っている。そこに誰もいなかったとしても、花は咲いている。

人の見ていないところで努力しても、結果が出せなければ、努力していないと同じこと、みたいな話だったんだろうか。まだ誰も知らない生き物や植物があったとしても、それが発見されなければ、なかったことと同じ、みたいな?んー。これって哲学ですか?それとも何かの理論?

わたしにはその時の話の真意が未だにわからない。聞いてみたくても、先輩はもう答えてはくれない。気づけば命日を数日過ぎていた。桜が満開の時期だった。そのことを誰も花見をしていない公園を歩きながら思い出した。

桜は一週間くらいで散ってしまう。「この一週間のために、夏の暑い日も、冬の寒い日も、この道を通って通勤しているんだよ」と笑っていた。会社の近くに桜の名所があるのだ。一年の変化を見届け、ついに満開になった桜を愛で、サラサラと花びらが散る中を自転車で駆け抜けるんだ。そう言って、満面の笑みで桜を見上げていた。

今、先輩が生きていたら、この世界の一大事をどう言っただろうか。まあ、生きていたとしたら、すでに退職している歳だ。きっと会うことはないだろう。あれ?もし先輩が亡くなったことを全く知らない人にとっては、先輩は死んだことにはならない、ってことですかね?

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