最後のじかん
ステージの緞帳の内側は、こんな感じ。ムスメの部活は総員97名。昨日行われた演奏会は「サマーコンサート」と銘打ってあるが、実際には、卒部する3年生の追い出しコンサートなのだ。
一曲終わるごとに卒部の瞬間が迫ってくる。練習に練習を重ねた曲、このコンサートの為に新しく覚えた曲、入部して最初に練習した曲、先輩たちと合奏した曲、後輩たちと新人コンクールで演奏した曲、思い出の数々が音に乗って現れては消えてゆく。
緊急事態宣言に伴って、学校は閉鎖、部活も中止になった。朝練も、夕練も、休日練も、全部ぜんぶストップしていた期間、先生が手紙をくれた。「気持ちをとぎらせずに、いつかまた演奏できる日まで、共に頑張ろう」
全国コンクール中止のニュースを耳にしたとき、真っ先にメッセージをくれたのは、ひと学年上の先輩たちだった。ショックを受けているだろうと、学年メンバー全員が寄せ書きをしてくれた。もちろん彼ら、彼女たちも、高校で吹奏楽部を続けている人が多く、コンクール中止の事実は衝撃だったはずだ。それでも真っ先に後輩たちのことを思って声をかけてくれる、そんな先輩たちと一緒にやってこれて、本当に幸せだったね、と思う。
アンコールの曲が終わった。全員が立ち上がって手を振る姿が緞帳に隠されていく。もうこれで、このメンバーで演奏することはないのか、と思うと寂しい気持ちでいっぱいになる。
コンサートが終わって、楽器も荷物もトラックに積み込む。そして、お別れを惜しむ卒部式が始まった。後輩たちからの合唱、クイズ、メッセージ、3年生からの合唱とメッセージ。先輩ありがとう、と後輩たちが泣いて、みんなありがとう、これからも頑張ってね、大好きだよと3年生が泣く。
一年前の夏、「もう辞めたい」と泣いたムスメが「みんなありがとう」と言って泣いている。「いつも優しく、細かいところまで丁寧に教えてくださった先輩、ありがとうございました」と後輩にお礼を言われている。本当に不思議な気持ちだ。よかったね、ムスメ。がんばったね、ムスメ。エライぞ。
ただ、10月末にスカパー主催の演奏会がある。3年生25人のうち、20人は残って2年生と一緒にそれに出るらしい。だったらこんなに泣かなくてもいいんじゃないか、とわたしは思ってしまった。
たしかに、コロナ禍がどうなるか誰にもわからないし、10月に演奏会ができるという確証はないし、後から振り返ってみれば「サマコンのあの時に、卒部会をしておいてよかったね」ということになる可能性もある。そうなって欲しくはないけど。
ひとまず、おつかれさま。がんばってきたことは、一生の宝になるよ。