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むかえにきて

肌寒く、気分も空も重い夕方、
ポツリポツリと雨が落ちてきた。
その時、スマホに着信があった。
見覚えのない市外局番。
「はい?」と出てみる。
物音が反響する建物からかけているのだろう、
学校を思わせる音がする。
「むかえにきて」
もしもし、でもなく、あのー、でもなく、
あっさりと無防備に、SOSだけを的確に。
子どもの声だった。ちょっと鼻声かな。
「どなたですか?」と尋ねたら、
「あっ、すいません、まちがえました」
と、電話は切れた。
着信履歴を見ると、その市外局番は
ここから900kmも離れた
『沖縄県 那覇市』だった。
思い浮かぶのは眩しい蒼空と、そこにある日常。
あの子は誰に電話をかけたのだろう。
そして、その人との絆の強さを感じさせる声が、
家路につくわたしの心を温めた。


#旅する日本語 #蒼空 #まちがい電話






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