どこへ。
朝、オットが窓から通学路を見ていた。
「あの子は何をしているのだろうか」
路肩に置かれたコンクリートブロックの上にノートと教科書と筆箱を広げている女の子がいた。傍に水筒とランドセルを置き、何かノートに書き付けている。小学1年生の黄色い帽子をかぶっているその子の周りには、同じく黄色い帽子の女の子が3人いて、その子の様子を見ていた。
「なんで学校ではなくて、ここで?」とオットが不思議そうに言う。そんなの、ここでやらないといけないからに決まってるじゃないの。
『遅刻するから早く行きなさい』と言われて家から出され、でも宿題をやってないまま学校に行ったら先生に叱られるとわかっていて、だったら学校に着く前にやるしかない、と思ったに違いない。
それがどんなに不合理なやり方だとしても、素直で律儀な1年生には「ねばならない」ことの方が重要なのだ。
しかし、時刻は8時。8時20分には着いてないと遅刻だ。しかもここから学校まで、1年生の足だと20分かかる。他の子は「行こうよ〜」と声をかけているが、その子は「まだ」と言って動かない。
そこに通学支援の大人が来て、学校に行くことを勧めているようだが、その子は泣き出してしまった。宿題が終わってないので、先生から叱られるから行きたくないのか、それとも今ここで「なにやってるの」と叱られてしまったのか。おいおいと泣いている。
そこまで見て、わたしも出勤したからその後のことは知らない。
後から、あれは宿題をやっていたのではなくて、通学路で突然何か閃いて、創作意欲に火がつき「書いておかねば」とノートを広げたのかもしれないなと思った。それを妨げられて泣いていたのではないだろうか。
どちらにせよ、通学路でおもむろにランドセルをおろし、ノートを広げるに至るほどの理由が彼女にはあった。大人にはわからないが、それは彼女にとって「今やるべきこと」だったのだ。
今しがた、うちのムスメにもう寝ろと言ってタブレットを取り上げた。今度はノートと鉛筆を寝床に持ち込もうとしている。早く寝なさいと強めに言ったら、「だって思いついたら書いておかないと忘れちゃうでしょ!」と強めの返事。ああ、やっぱりあの小学生は「書いておかないと忘れる素敵なこと」を思いついたのではなかろうか。
さて。わたしの「思いついたら書いておかなきゃならない素敵なこと」は、どこへ行ってしまったのだろう。
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