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あまくち

カレー屋に行った。このカレー屋は以前、ムスメに幼児用のとりわけ皿を出したことで、あまり印象が良くない。店に入ると「いらっしゃいませ」とオットとわたしの前にはグラスに入った水を出したが、ムスメにはクマさんのイラスト入りのプラスチックのマグカップに入った水と、頼みもしないのに取り分け用のプラスチック皿と幼児用のスプーンを持ってきたのだ。店員の目が悪いのか、それとも私たちには幼児の霊がついて来ているのかと、その時は笑い話で終わったが、幼児にに見られた高校生は傷ついていた。

だが、そのカレー屋をオットは気に入っていて、それくらいのことでは気持ちは変わらなかった。今日も「カレーでも食うか」と連れて行かれた。わたしもムスメも気が進まなかったが、オットが食べたいと言うなら、とついていった。

今日は幼児用の食器は出されなかった。カレーを注文すると、辛さの好みを聞かれた。「辛さはどうしますか」と聞かれたムスメは、以前は普通の辛さのカレーを食べたが、自分には少し辛めの味だったと覚えていたのだろう。「あ、わたしは甘口にしてください」と頼んだ。

わたしとオットのカレーの色と、ムスメに持ってきたカレーの色は明らかに違っていた。何を混ぜたのか、カフェオレのような色をしていた。一口食べたムスメが「え?」と首を傾げた。わたしも一口食べてみた。

ムスメのカレーは、これまでわたしが思ってきた「甘口」ではなかった。「甘いもの」と言った方が良かった。辛さが和らいでいるのではなく、甘く味付けしてあった。カレーに練乳を混ぜたような、砂糖の甘さだった。厨房の料理人が留守をしていて、バイトの誰かが作り方もわからず、とにかく甘くすればいいやと思って作ったのではないか、と想像した。何かの間違いじゃないのか、と思うほど不味かった。
カレーを食べるムスメの顔は苦痛に満ちていた。

この店の甘口がこの味だと知っていたら絶対に頼まなかっただろうが、自ら「甘口で」と頼んだ手前、ムスメは完食しようとしていた。しかし少しも食べ進められない。ちまちまとスプーンを口に運ぶがちっとも美味しくなさそうだ。食べられないものを出しているわけではないのだから、文句も言えない。

途中、「お父さん、少し食べてくれない?」とムスメに頼まれたが、オットは「いや、俺は無理」と断った。「甘口カレー」をわたしとムスメでどうにかこうにか食べ終えて店を出た。「次は甘口を頼まない方がいいな」とオットが言って、わたしとムスメは口を揃えて「もう来なくていい」と答えた。

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