見出し画像

炙り人

オットは台所にキャンプ用のバーナーを置いていて、なんでも炙りたがる。

これは、わが家のおかず。オットが炙っているのは、ローストビーフだ。この日はちょっといいことがあったので、肉を食べた。でも、ウェルダンにしてしまったらローストビーフの良さが全滅だ。そして、隣の肉も、ミディアムくらいに焼いていたのだが、当然ながらゴゥゴゥと炙られた。

実は、オットは炙りが好きというわけではなく、生モノが苦手なのだ。刺身、寿司、カツオのたたき、ローストビーフ、ユッケ、レアステーキなどが食べられない。ムスメを連れて回転寿司に行くことがあるが、食べるのは「おしんこ巻き」「いなり」「炙りもの」「肉もの」ばかりだ。先日の海外出張など、豪華なステーキをほんのちょっとだけ食べて「腹一杯だ」と嘘をついて残したらしい。心の中では(生じゃん)とビビっていたようだ。

「生で食うなんて野蛮じゃないか」と自分の好き嫌いを正当化しようとしているが、果物はコンポートやジャム、パイなどの火を通したものを嫌う。「果物は生で食べた方がうまいじゃないか」と力説する。つまり、あなたは生のタンパク質が嫌い、っていうことでいいですかね。

そんなわけで、わが家では食事の際にちょいちょい「ゴーッ」とか「ボーッ」とか音がする。先日は鮭の塩焼きにとろけるチーズを乗せて炙っていた。そりゃ旨いでしょうけどね。

火を通さないと食べられないのは、なぜだろう。オットの言動からは、食あたりの危機感、味への不信感が見て取れる。原始の記憶がまだ明確に残っているのか。たしかに初めて火を使って調理をした人の驚きや喜びたるや、わたしたちが「うっま〜〜!」と叫ぶ比ではなかっただろうな。

さて。今夜の夕食は炙らずに済むものを何か作ろう。

サポートいただけたら、次の記事のネタ探しに使わせていただきます。