公共機関に属するデザイン/イノベーションラボの目指すところ
これまで、政府直属のデザイン機関やラボの立ち上げから終わりまでの概観などについて説明してきました。
運営方法や資金の調達元、行政組織との関わり方なども含め、それぞれDesign Lab/Innovation Labには特色があります。その中でもそれぞれのラボの特徴を端的に表しているのが、ラボ自らが提唱している彼らの目的やゴール、デザインOppotunityなどのステートメントではないかと考えています。
今回の記事では、世界各国にあるラボが掲げているステートメントやGoal,デザインへの期待などにフォーカスしていきます。
🏰 NYC Opportunity/ Service Design Studio
2017年にニューヨーク市長室のNYC Opportunity (経済機会部門)に立ち上がったサービスデザインスタジオは、「貧困削減」という具体的なミッションを持ち、立ち上がった部署です。
NYC Opportunityのサービスデザインスタジオ について詳しく書かれた記事はこちら👇
👉役割
貧困を減らし公平性を高めるために、NY市がエビデンスとイノベーションを活用する支援をすること。
NYC Opportunity のテーマである「貧困」や「公平性」を扱うことを主な役割として提示しています。国レベルのデザインラボとは異なり、抽象的な課題を扱うというよりも、地方自治体であるNY市が向き合わなくてはならない具体的な社会課題に向き合う役割を担っている組織であることがわかります。
👉GOAL
すべてのニューヨーカーが利用できるように、公共サービスを効果的で利用しやすいものにする。
役割と同様に、立ち上げ時に「貧困削減」という具体的なテーマを持っているため、service design studioのゴールは他ラボと比較した中でも特に明快な文章で示されています。また、どんな人でも公共サービスにアクセスできることを明示しているのも、このテーマが基になっている所以であると思いました。
👉Outcome
service design studioでは、Civic Service Designという造語をつくりました。これは、市議会が運営するプログラムや資金の提供に、サービスデザインのツールや手法を適応することを意味しています。
service design studioはCivic Service Designを通したoutcomeとして、以下の4つを明確化しています。
・複雑に絡み合ったシステムやプロセスの明瞭化
・ 主要な取り組みやプロジェクトにおいて、チーム全体の意見が一致していることを確認すること
・ サービスやプログラムに関わる人々のニーズに根ざしたソリューション
・ 納税者からのコスト(金銭・時間)の適切に割り当てを保証すること
個人的には「複雑に絡み合ったシステムやプロセスの明瞭化」と「主要な取り組みやプロジェクトにおいて、チーム全体の意見が一致していることを確認すること」の2つのが、公共の機関に属しているラボである性質が現れてて面白いと思いました。これらは、4つのうちの半分がサービスなどのアウトプットではなく、プロセスや組織そのもとと向き合うことを成果としていることが示されています。
👉Opportunity
また、上記のOutcomeの定義に加えて、Studioでは5つのDesign Opportunityを掲げています。
・サービスを提供する人と一緒につくること
・ プロトタイを作りプでユーザビリティテストを行うこと
・アクセシビリティの担保
・機会の均等な分配
・結果を評価し、改善を行う
Outcomeを達成するために、上記のOpportunityを組織にインストールしながら各プロジェクトや取り組みを行っているようです。
🏰 Policy Lab(UK)
UK Policy Labはイギリスの内閣府の一部であるデザインベースのイノベーションユニットです。この組織にはデザイナー・研究者・政策立案者が在籍しています。
UK Policy Labのブログより
👉目的と役割
デザイン・データ・デジタルツールを使用し、政策立案に新しいアプローチをもたらすことを目的にしており、政府全体の政策革新のための研究とデザインの実験場として機能している
Policy Labは内閣府の一部に存在しており、政府全体への実験的な介入を目的としているため、NYC Opportunityの事例と比較すると役割や目的が包括的かつ抽象的であることがわかります。
👉GOAL
政策者を支援し、目的のあるイノベーションを実現すること。実践的なアプローチを通じて、以下の4つの重要な資質を提供するための新しい提案づくりを支援します。
4つの重要な資質
・ 市民と政府のニーズに答えます
・プロセスと成果が包括的でオープンであること
・複雑性とコラボレーションのための機会を受け入れ、体系化すること
・影響の測定と学習を効果的に行うこと
また、ゴールに関しても「サービスを効率化する」や「政策をデザインする」というような目的ではなく、政策者への支援を通したイノベーションの実現を目指しています。
👉Policy Labの3Dsとデザインの役割
Policy LabではDesign/Deta/Digitalの3つを重要な3Dsとして掲げていますが、その中でラボにおけるデザインへの期待を以下のように提示しています。
コストの削減
プロトタイピングを通じて不具合を早期に発見し、人々が何を必要としているのかに焦点を当てること。
革新的なアイディアを生み出すこと
問いを再定義することで新しいアイデアを生み出し、クリエイティブな手法でフレッシュな思考を生成すこと。
人間中心のサービスをつくる
ユーザー中心のデザインを用いて、人々(市民)と一緒に時間をかけてニーズを理解し、彼らと一緒にサービスをつくること
複雑な問題を紐解く
複数のステークホルダーが絡む課題をデザインで解決すること
実はこの文章、デザイン以外のデータ・デジタルに対してそれぞれ期待していることが続いて記載されています。それぞれの分野への期待値やメリットを外部に発信しながら、組織内のメンバーに対してもエンパワーメントしているように感じました。
🏰 Auckland Co-design Lab
Aucland Co-design Labは、2015年にニュージーランド・サウスオークランドに設立されたイノベーションラボです。オークランド評議会と8つの中央政府機関から資金提供を受けて運営されています。複雑な社会問題に対応したアイデアを開発するために設立されました。
👉目的
Co-Designの原則と実践を通じて、問題の当事者への協力・理解・エンパワーメントを促す。
Auckland Co-design Labでは、他のラボとは異なりCo-Designの手法を用いて課題を解決することを明文化しています。
👉Goal
複数の政府機関のチームが協力しあい、市民と一緒に活動し、イノベーティブなアイデアや解決策をサポートし仲介すること。
また、Goalの中にも「協力」「一緒に」という言葉を混ぜ込むことみ、上述のCo-designの目的を達成した際のゴール設定としています。
👉4つの焦点
Auckland Co-design Labは、オークランドの地方自治体・中央政府・地域社会との連携で、主に4つの分野に焦点をあてています。
・Co-designプロジェクトの開発と実施
・ワークショップやコーチングを通じたCo-designスキルの向上
・Co-designの実践と成功の条件についてのアドバイスを提供
・公共部門の研究室やイノベーションチームについての学習を共有
これらの4つの焦点からも、Co-designの実践を中心に据えているのがわかります。
ちなみにCo-designの解釈にはいろいろな見方や定義があるかと思いますが、Auckland Co-design LabではCo-designを以下のように定義しています。
Co-designは、問題を特定し、解決策を生み出し、市民や職員の知識と創造性を活用し実践します。
おわりに
今回の記事ではラボごとの特色を知るため、ラボが自ら定義している目的やゴールを整理しました。貧困削減がメインテーマにあるNYC Opportunityのサービスデザインスタジオ・内閣府に所属し、政策に大きく関わるUK Policy Lab・Co-designの実践を通して社会問題に対応するAucland Co-design Lab。各ラボの役割やデザインで達成しようとしている点は共通点もありますが、目的を比較することでそれぞれの特徴がしっかり出ていたかと思います。
ラボの立ち上げフェーズでは特に、その目的や役割を明確に定義することで、達成すべき事象に輪郭を与えたり、やるべきこと・やらないことを整理していくこと、ステークホルダーへの期待値のすり合わせを行うことができます。このように、初期フェーズでしっかり輪郭を描いていくことが、ラボの思想のコアとなり実践につながっていくのではないでしょうか。
行政×デザインの話題についてもし興味をもっていただけたら、本マガジンのフォローをお願いします。また、このような公共のサービスデザインやその取り組み、その他なにかご一緒に模索していきたい行政・自治体関係者の方がいらっしゃいましたら、お気軽にTwitterDMまたはWEBサイトのコンタクトページよりご連絡ください。
一般社団法人公共とデザイン
https://publicanddesign.studio/