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【067】100年時代の後半戦、後悔しないための人生戦略
中高年は誰しも”キャリアの下降”に恐怖を抱く?
わたしも人生後半に片足を突っ込み始めているので、中高年に話題の『人生後半の戦略書』を手に取ってみました。
この本のテーマはズバリ、「キャリアの下降との向き合い方」。中高年になると、キャリアの下降は避けられないようです。特に、過去に輝かしい成果を残してきた人ほど、その現実はなおさら絶望的に映るとか。
でも本書は、キャリアの下降を嘆くのではなく、それをどう受け入れ、どう生き直すかを提案しています。いわば“人生のリスタートマニュアル”です。
読んでいるうちに、自分のキャリア観や働き方を振り返るきっかけにもなりました。
キャリアの下降に免疫がある人たち
思えば、私は20代後半、結婚と出産を機に「意図的にキャリアの下降」を選びました。独身時代は仕事最優先でしたが、子育て中は「残業ナシで定時で保育園ダッシュ」「土日仕事もナシ」というルールを完璧に守り、家族と育児を最優先で生活していました。
当時、同期や後輩が華々しく活躍しているのを見るのは正直複雑でしたが、それ以上に、子どもの成長を間近で見守る時間の尊さを感じていました。その時の選択に後悔はありません。むしろ、「キャリアの下降を受け入れる耐性」のようなものが育まれた気がします。
女性の多くが同じような感覚を持っていると思います。人生の節目でキャリアが上下する経験をしているからこそ、キャリアに執着しすぎない。対して男性は、仕事最優先で生きてきた人が多いので、キャリアの下降に対する耐性が低い。
一方で、仕事最優先で走り続けてきた男性にとって、キャリアの下降はより深刻な問題に映るのかもしれません。
時間とお金を投資すべきは、キャリアよりも経験
人生後半の戦略を考えるとき、もう1冊おすすめしたい本があります。それが『DIE WITH ZERO』です。”お金はただ貯め込むだけでなく、適切なタイミングで使うべき、つまり死ぬ時はゼロでいい”、ゆえにこのタイトルになっています。
ちょっと私のエピソードを交えさせてください。
私は37歳のとき、当時50代後半の母を初めてのハワイ旅行に連れていきました。母はそれまで海外旅行をしたことがなく、「いつか行けるといいなー」と話していました。でも、母の年齢や体力を考えると、“いつか”はそう遠くない未来に限られていると感じていました。
とはいえ私はシングルマザーで、時間もお金も余裕ない。それでも、2年後の旅行を実現するために旅行積立を始め、「母が体力のあるうちに」と意を決して決行。結果、正月のワイキキという王道の体験を母にプレゼントすることができました。50代の母はせっかくのハワイだからとちゃっかり水着も用意し、砂浜やプールを満喫していました。でも、あれから20年近く経った今では、母の体力は衰え、もう長時間の移動は難しいでしょう。あのハワイ旅行が、母にとって最初で最後の海外旅行になるのかもしれません。
もし、あのとき「お金が貯まってから」「時間に余裕ができてから」と考えていたら、母を旅行に連れていくチャンスは失われていたでしょう。タイミングを逃すと、お金でも取り戻せない瞬間があるのです。
これが『DIE WITH ZERO』のメッセージそのものです。
将来を案じるがゆえに必要以上のお金を貯めこもうとすると、時間とお金を本当に大切なものではなく、仕事に費やすことになってしまいます。時間もお金も適切なタイミングで使うことで、真の価値が得られるのです。体力や健康、時間といった有限のリソースをどう配分し、どう投資するかで、得られる“記憶の配当”の価値が大きく変わります。
あのハワイ旅行は我ながら最高の判断だったんじゃない?とこの本を読みながら思うのです。
後半戦のキャリアは「指導者(メンター)」へのシフト?
仕事を完全に手放すわけにはいかないけれど、人生後半の働き方は、生物学的に知能が衰えていくことを踏まえて変わるべきです。
『人生後半の戦略書』によると人生の後半はキャリアの実践者から指導者(メンター)へのシフトが一つの解決策であると提案しています。年齢とともに衰える流動性知能に頼るのではなく、結晶性知能を活かして後進を支える役割を担うべきだ、という考え方です。
ただ、メンターへのシフトも簡単ではありません。過去の成功体験に執着すると、いつの間にか“老害”に片足を突っ込む危険も…。良かれと思って若手にアドバイスした結果、煙たがられる話は枚挙にいとまがありません。
定年後の再雇用で肩書の外れた元管理職が、上司である若手の管理職に説教や指示出しをして迷惑がられている…などの話をよく耳にします。良かれと思って行動ただけなのに、”老害”認定されてしまうのです。
メンターと紙一重の”老害”にならないために
メンターと老害の違いを考える上で、参考にしたいのが『モダンエルダー』という書籍です。この本では、老害にならないための示唆に加えて、人生後半のキャリアにおいて、新しいアイデンティティをどんなふうに構築していくのか、著者の体験からえら得た学びが書かれています。
著者のチップ・コンリーは、ホテル業を創業し成長させた企業を売却した後に、50代にして、シリコンバレーで注目のスタートアップ「エアビーアンドビー」の創業者に頼まれ、顧問として活躍してきました。二周りも年下の若者たちに囲まれ、恐る恐るスタートした第二のキャリアの課程で当惑しながらも社会に貢献できる働き方について得られた知見を与えてくれる、ストーリーとしても面白く読める書籍です。
彼がメンターとして成功した秘訣は…主体者であった働き方から支援者としての働き方に自分のアイデンティティを再構築したこと、弱みを認め謙虚に学び続けたこと、脳内ロールモデルを行動指針にしていたこと(ちなみにロールモデルは「1兆ドルコーチ」として有名なビル・キャンベルで、生前も面識はなかったようです)など、具体的なエピソードとして描かれています。
以下のように、最初は当惑しながら第二の指導者としてのアイデンティティを再構築していったエピソードも参考になると思います。
入社して数週間もしない頃、ある直属の部下からこう言われた。「あなたってこんなに賢いのに、何にもわかってないんですね。不思議」。確かにそうだ。テクノロジーについては超がつくほど何も知らなかった。グーグルドキュメントを使ったこともなかった。MVP(スタートアップでよく言う、実用最小限のプロダクト)をスポーツの最優秀選手だと思っていたし、ブルーフレームはガスコンロの炎のことだと思っていた(シリコンバレーでは、超イケメンの若い起業家のことをブルーフレームと呼ぶらしい)。私は意味がわからなかった。
人生後半、最重要なのは”人間関係投資”
そして、人生の後半で幸福度を高める鍵となるのが人間関係への投資です。これは『人生後半の戦略書』でも『ライフ・シフト - 100年時代の人生戦略』でも共通して語られている必要不可欠な要素です。
人間関係は人生で最も重要なリソースの一つであるにも関わらず、私たちは人間関係を構築する技術について学ぶ機会があまりありません。でもこれからの時代、配偶者や親友、趣味を共有する仲間とのつながりこそが、人生を豊かにする最大の資産になるのです。
『ライフシフト』では、3つの人間関係資産が登場しますが、人生後半においては、その中でも「活力資産」が特に重要です。これは、職場の人間関係や、広く浅い知人関係とは異なる、昔からの幼なじみや親友などに当たります。一緒にいるとポジティブな気分になったり、幸福感を与えてくれるような親密な友人関係が人生の幸福感の源泉になります。
また、『人生後半の戦略書』では、配偶者などの安定した長期的な人間関係の価値も強調されています。(ただ、既婚者は離婚者や未婚者より孤独ではないそうですが、最も孤独なのは、「不在がちな配偶者」を持つ既婚者だそうです。)
健康の観点から言えば、孤独は1日当たり15本の喫煙に匹敵し、肥満よりも体に悪いそうです。また、孤独は認知の低下および認知症と強い相関関係にあることもわかっています。
人間関係の構築が不十分だと感じるならば、「時間ができたら…」ではなく、今から人間関係を育む努力を始めた方がいいのかもしれません。
最後に:長い人生だからこそ挽回できる
気づけば、人生100年時代なんていう“長丁場”に突入しました。「ライフシフト」が刊行されてからわずか10年、人生の後半戦を不安に思う人が多いのも当然です。
でも、過度に恐れる必要はないと思っています。
タイミングを逃さず経験に投資して、大切な人と過ごす時間をつくる。キャリアが下降したって、それは新しい役割を手に入れるスタート地点。そして、人間関係という最強の資産を育むことも忘れない。これらが後半戦を豊かにするゴールデンルールです。
ふと思ったのですが、人生の節目でキャリアの上下動を経験している女性たちの方が、後半戦でその柔軟な変身力や持ち前の人間関係スキルという真価を発揮するんじゃないでしょうか。ビジネス環境はまだまだ女性に最適化されておらず、多くの女性がキャリアの悩みを抱えていると思いますが、期待していいと思います。人生は長いけれど、いや長くなったからこそ挽回のチャンスが巡ってくるからです。そして私も未来の自分への投資を始めてみようと思います。まずは人生のパートナー探しから…笑。