暫時相賞莫相違/杜甫

曲 江  杜甫
 
 朝 囘 日 日 典 春 衣 
 毎 日 江 頭 盡 醉 歸
 酒 債 尋 常 行 處 有
 人 生 七 十 古 來 稀
 穿 花 蛺 蝶 深 深 見
 點 水 蜻 蜓 款 款 飛
 傳 語 風 光 共 流 轉
 暫 時 相 賞 莫 相 違

朝(てう)より回(かへ)りて日日(ひび)春衣(しゆんい)を典(てん)し、毎日 江頭(かうとう)に酔(ゑ)ひを尽くして帰る。

酒債は尋常、行(ゆ)く処(ところ)に有り。

人生七十 古来稀なり。

花を穿(うが)つ蛺蝶(けふてふ)は深深(しんしん)として見え、水に点ずる蜻蜓(せいてい)は款款(くわんくわん)として飛ぶ。

伝語(でんご)す、 風光、共に流転(るてん)して、暫時(ざんじ) 相(あひ)賞して 相(あひ)違(たが)ふこと莫(なか)れ、と。

朝廷から戻ってくると、毎日のように春着を質に入れ、いつも曲江のほとりで泥酔して帰るのである。

酒代(さかだい)の借金は普通のことで、行く先々にある。
 
人生七十まで長生きすることは稀な(滅多にない)こと。

花の間を縫って飛びながら蜜を吸う揚羽蝶は
奥深く静寂に見え、水面に軽く尾を叩いている蜻蛉は真心あり純粋な様子で飛んでいる。

私は自然に対して言づてしたい。「そなたも私とともに流れて行くのだから、ほんの暫くの間でもいいから、お互いに愛(め)で合って、そむくことのないようにしようではないか」と。 

「伝語」する相手を「同僚」とするものや「時人(その時代の人)」とするものなど、いくつかの解釈がある。

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当時、杜甫は宰相が敗戦の責任を問われたのを弁護して肅宗の怒りに触れ、朝廷へ出ても楽しまない日々が続いていた。

「曲江」は長安の東南にあった池の名。景勝地として、長安随一の行楽地として賑わっていた。

こののち華州(現在の陝西省渭南市)の司功参軍に左遷される。759年(乾元2年) 関中一帯が飢饉に見舞われたことにより、官を捨てて、家族をつれて秦州(現在の甘粛省天水市)に赴く。さらに同谷(現在の甘粛省隴南市成県)に移るが、ドングリや山芋などを食いつないで飢えを凌ぐ。蜀道の険を越えて12月成都に赴く。ひとまず城西の寺の僧復空のもとに身を落ち着けた。


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Rika.
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