イノベーションと組織学習~世界の経営学の視点から
2020年6月11日(木)のMBA Essentialsのレポートです。
今回は、入山 章栄先生による、
「イノベーションと組織学習~世界の経営学の視点から」
です。
入山先生につきましては、下記を参照ください。
https://www.waseda.jp/fcom/wbs/faculty-jp/6072
今回の講義は、まとめると、以下のようなことだと思いました。
- 新しい知は常に既存の知と別の既存の知の新しい組み合わせ
- イノベーションを起こすには知の探索が必要
- 知の探索を推し進めるには、腹落ち感のあるビジョン(=センスメイキング)が必要
- ソーシャルディスタンス&デジタルトランスフォーメーション(SD&DX)時代には、知の探索が拡大しやすい
一つ一つ説明していきます。
● 新しい知は常に既存の知と別の既存の知の新しい組み合わせ
「新しい知は常に既存の知と別の既存の知の新しい組み合わせ」
というのは、シュンペーターがかなり前から提唱している話で、特段新しいことではないかもしれません。ただ、ビジネスに限らず、自分が新しいアイディアを思いつく時は、常に既存の知と別の既存の知の新しい組み合わせから来ている(=イノベーションだけではない)、という話があり、それは自分にとっては新鮮でした。
● イノベーションを起こすには知の探索が必要
上記のように、新しい知は、既存の知と別の既存の知の新しい組み合わせになるため、本当に新しいもの(=イノベーション)を生み出すためには、今までやっていなかった知の組み合わせを行なう必要があり、そのためには、知の探索、すなわち、遠くの知を幅広く見ることが必要、ということです。
例えば、トヨタ生産方式は、実はアメリカのスーパーマーケットのやり方からヒントを得て生み出されていますし、TSUTAYAのCDレンタルは、なんと消費者金融のビジネスモデルから発想を得て生み出された、と言われています。TSUTAYAの話をもう少し説明すると、1000円で買ったCDを3日300円で貸せば、これはものすごい利益率の高いビジネスになる、ということです。(お金を貸すと高利貸しになりますね)
このように、全く異なるところの知を得ることで、イノベーションは生まれる、ということを示唆しています。
ただ、人間には認知に限界があるので、どうしても自分の認知している範囲内だけで物事を考えようとする傾向があります。たとえば、ビジネスで言えば、自分の会社内や業界内しか見ない、ということです。ただ、同じ会社内や業界内、というのは、みんな認知がそこに偏るので、知と知の組み合わせがやりつくされてしまっていて、もう新しい組み合わせが残っていない、ということが起きがちです。なので、会社内・業界内だけを見ていてはダメで、遠くの知の探索が必要になる、ということです。
また、知の探索を推し進めて、このアイディアはいける、と思ったら、そのアイディアに関しては、徹底的に深堀りする必要があります。確かに、よく出来たビジネスモデルには、単なるアイディアレベルに留まらず、継続的に利益を得られる仕組みが組み込まれていることも多々あります。
ここで、知の探索について、幾つかに分類して説明されていたので、そちらも紹介します。
(1) 個人レベルの「知の探索」
こちらは、端的に言うと、「失敗しても良いから色んなことを試してみる」ということかと思いました。
例えば、スティーブ・ジョブズは天才、とよく言われていますが、天才というのは確かかもしれませんが、失敗作を世に数多く出しています。例えば、下記のようなサイトもありました。
https://www.gizmodo.jp/2011/09/post_9316.html
要は、「知の探索には失敗はつきもの」ということです。
よって、会社としては、どう失敗を受け入れるか?というのが重要になってきます。逆に言うと、失敗を受け入れられない会社にはイノベーションは起こせない、ということです。例えば、失敗すると評価が下がるような評価制度の会社では、誰も新しいことをやらなくなり、イノベーションが生まれなくなります。
最近では、メルカリやSAPなど、評価制度そのものを見直している会社もあるようです。
(2) 戦略レベルの「知の探索」
こちらは、オープンイノベーションを使って知の探索をやっていきましょう、という話です。要は、アライアンス、M&A、CVCなどを積極的にやっていきましょう、とい話ですね。
ここで出ていた話としては、最近、大企業が、新型コロナの影響を受けて、CVC投資を減らしている、という話があります。理由を聞くと、答えは「本業じゃないから」。ただ、入山先生的には、「本業はイノベーションを起こすことでしょ?そのための知の探索としてCVC投資をしているのに、それを本業じゃない、というはどういうこと?」という感じみたいです。要は、そういう企業は、本気でイノベーションを起こそうとは思っていない、ということになる、ということです。
また、不景気の時こそオープンイノベーションを使え、という話も紹介されていました。理由は、不景気の時こそ「安いから」です。また、Inside-out型イノベーションとして、下記の内容を紹介していました。
1. 社内プロジェクトを社外プロジェクトに
2. 社内で優先度が低い事業をスピンアウト
3. 社内に蓄積するIPの解放
4. 潜在パートナーとのエコシステム形成
5. 情報・アイディアを交換するオープンドメインの形成
ダイワハウスなどが、今社内のものを外に出して色々な活動をしている、というお話しもされていました。
(3) 組織レベルの「知の探索」
こちらは、要は、人材の多様化、です。
日本では、人材の多様化というと、女性管理職を30%以上にする、とかになっていたりしますが、なぜそうしなければいけないのか、という根拠がないまま数字だけが独り歩きしています。
人材の多様化をする、というのは、知の探索によってイノベーションを起こしうるから、です。
こう考えていくと、「女性」という考え方ではなく、会社の中に、色々なバックグラウンドを持った色んな考え方を持つ人を入れる必要がある、ということは自明です。それを意識して組織を構築していくと、自然と、国籍や性別や年齢など、色んな人を入れていくことになり、結果的に女性比率も上がるかもしれない、ということです。
(4) 人脈レベルの「知の探索」
こちらは、端的に言うと、「弱い結びつきのネットワークが知の探索に繋がる」ということです。
弱い結びつきのネットワーク、というのは、知り合いの知り合いの知りたい、みたいな繋がりのことです。逆に結びつき、というのは、親友とかすごく仲のいい仲間、ということですね。強い結びつきも良いのですが、知の探索、という観点でいうと、どうしても強い結びつきの人は、似たような人が集まりやすかったりして、新しい知につながりにくい。それと比較して、弱い結びつきのネットワーク、というのは、簡単に作ることが出来ますし、継続していくことも比較的楽です。となると、大きなネットワークになりやすく、それにより、全く知らない知を得ることに繋がる、すなわち、知の探索に繋がる、ということになります。
● 知の探索を推し進めるには、腹落ち感のあるビジョン(=センスメイキング)が必要
こちらは、ちょっと難しいのですが、「知の探索には、失敗がつきものだしコストもかかるし大変。なので、そこを推し進めるためには、納得感のある将来像(=ビジョン)が必要」ということです。
今の世の中は、不確実性がどんどん高まり、明日どうなるのか、ということが分からなくなってきています。その中で重要なのは、正確に将来を予測して進んでいくこと、ではなく、納得感のある将来像(=ビジョン)に向かって変化に適応しながら進んでいく、ということかな、と思いました。そのため、ビジョンはものすごく重要で、ビジョンがあり、それに共感した社員が一丸となって、変化に適応しながら進んでいく、というのが重要なのかな、と思いました。
知の探索に関しても、ビジョンがあって、それを実現するために、知の探索が必要で、そのために、数多くの失敗があっても、コストをかけても継続していくんだ、という会社全体の意志が必要になります。逆に言うと、ビジョンがないと、途中でめげてしまう、ということです。これは、会社としてもそうですし、やっている社員としても、ですね。
日本に於いても、「優秀な経営者は、明確なビジョンを語り、納得させるストーリーテラーである」という話をされており、ストーリーテリングの重要性をおっしゃっていました。
● ソーシャルディスタンス&デジタルトランスフォーメーション(SD&DX)時代には、知の探索が拡大しやすい
こちらは、自分としても実感があるのですが、今、リモートワークなどが進んでいる今の方が、知の探索が拡大しやすい、ということです。
例えば、以前は、みんなで一つの場所に集まらないと知り合えなかった人達と、オンラインだけで気軽に知り合うことが出来る、ということです。これはまさに自分も実感していて、オンラインじゃなかったら(少なくともこんな短期間には)知り合わなかったな、という人とのつながりがかなり増えています。これにより、ここ数か月で、人脈の知の探索はかなり進んでいるな、と思います。
なので、この状況をうまく活用できる企業が勝つ、という話をされていました。
ただ、DXというか、リモートワークに関しては、うまくいっている企業とそうでない企業との間に、センスメイキングがキーワードとしてあるのでは?という話もされていました。要は、社員がビジョンに共感できている場合には、リモートワークでも問題なく業務を進められるが、そうでない場合には、うまくいかないことも多いのでは?という話で、センスメイキングの重要性をここでもおっしゃっていました。
また、センスメイキングに関しては、ひょっとしたらオンラインではなく、リアルの方が深まりやすいのかもしれない、という話もおっしゃっていました。ここにはまだ答えはないように思えました。
今回は本当に盛り沢山で、授業を聞いているだけでかなり頭が疲れましたが、その分得るものも多かったです。特に最後のSD&DX時代の話は、「世界標準の経営理論」にも載っていない話だったのと、自分の実感と合っていることもあり、非常に納得感ありました。
https://www.amazon.co.jp/dp/4478109575
入山先生、どうもありがとうございました。
次回は、6/17(水)「アントレプレヌールシップ~成功確率を高める手法を学ぶ~」(長谷川 博和先生)、です。