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小春日和

私は小日向さくら。幼稚園に通う娘がいる母親だ。
「ひよりちゃんママー!こんにちは!今日って空いてる?」
この人は、娘のひよりと仲良しの子供のママである。
「蓮花ちゃんママ、こんにちは!空いてる!ランチ行こう!」
子供も親も仲が良く、度々遊ぶ仲になっていた。
子供を迎えに行くと、ランチへと向かう。いつも行くイタリアンのレストランだ。
この幼稚園のお母さんは専業主婦が殆どで、幼稚園が終わるとランチをしたりお茶をしたりするのである。所謂セレブっぽい家庭も多い。そこまでのお金持ちでは無いうちは、贅沢は出来ない平凡な中流家庭である。
いつも通り蓮花ちゃんママとたわいもない話をし、ランチを食べて家に帰った。

夕食の準備を始めていると、ひよりが不思議そうに見覚えのない丸い何かを持っていた。
「ひより、それなに?幼稚園から持って帰ってきたの?」
「ううん、カバンに入ってたの。」
よく見るとカメラが付いていた。
気味が悪いので、すぐにゴミ箱に捨てることにした。
何だろう、誰がひよりのかばんに入れたのか。
気にしないように心掛けた。

また別の日。
蓮花ちゃんママと落ち合い、カフェでランチを楽しんだ。いつも通り楽しく過ごした。
スーパーに寄って、家に帰るとひよりが幼稚園バックからいつも着ている服を取りだし、私に服を渡した。
「ママ、ひよりの服になんか付いてるー。これなあに?」
服にマイクが付いていた。盗聴器だった。
「なんだろうね、これ。ありがとね。」
ひよりにはもちろん本当のことは言えず、ごまかした。
幼稚園に電話してこの件を話すことにした。
「ひよりの母です。幼稚園のカバンに監視カメラが入っていたり、洋服に盗聴器がついていました。」
「ひよりちゃんも同じことがあったんですか?うちのクラスで同じことがあった子がいるそうです。幼稚園側でも調査をしています。」
「先生方や保護者の方にもヒアリングしているので、分かり次第連絡しますね。」
「ありがとうございます。よろしくお願いします。」
そう言って電話を切った。

いつも通り幼稚園に送りに行くと、蓮花ちゃんママに会った。今回あった不可解な事を相談した。
「ひよりちゃん以外もあったんだ。大変だったね。うちは特になかったよ。お金持ちの子が狙われたんじゃない?」
「いやいや、うちはお金持ちなんかじゃないよー!何言ってるのー!」
そう言ったあと、蓮花ちゃんママの顔を見ると今まで見た事のないような険しい顔をしていた。
「蓮花ちゃんママ…?どうしたの?」
「.....................」
蓮花ちゃんママは暫く黙っている。沈黙の時間がとても怖かった。
「うちさ、前に話したけど自営業じゃない?だから結構商売も浮き沈みがあってさ。でもみんなお金持ちな家庭ばっかりじゃん?」
半笑いのような顔をしているが目が一切笑っていない。
「そういう家庭もあるよね。」
「お金持ちアピールしたり、お受験の話する人ってすごいウザイんだよね。」
「......そんなつもりはないと思うけど。」
「.................だよ」
初めの言葉を聞き取ることが出来なかった。
「ん?なになに?」
「てめーらの事だよ。」
物凄い形相で睨みながら私に言い放った。
「今回の事件で不可解なことがあった人って覚えてる?みんな金持ちなんだよね。あんたも金持ちの旦那が居て、優雅な専業主婦じゃん。お受験の話もしてたよね?」
「まだお受験するとは決まってないけど、調べてるって話したよ?蓮花ちゃんママも考えてるって話してたじゃん。」
「合わせてるに決まってるじゃねーか。お金ないの知っててわざと聞いたんだろ、あんた。本当性格悪いよな。」
蓮花ちゃんの家庭はうちよりもお金持ちだと思っていた。蓮花ちゃんママはいつも綺麗なネイルをしているし、身なりも整ってて、ブランド物のバックも持っていたからだ。
「わざと知ってて煽ってんだろ。ふざけんなよ!」
段々と声のトーンが大きくなり、興奮しているのが伝わってくる。
「蓮花ちゃんママの事そんなふうに思ったことないよ。どうしちゃったの?おかしいよ。」
あまりにもすごい形相に圧倒され、上手く呂律が回らなかった。
「あんたのこと監視してたけど恵まれてるよ。」
蓮花ちゃんママはそう言い放つと走って姿を消してしまった。急いで追いかけたが、とても早い速度で追いつかなかった。

この一連の流れを幼稚園に戻り、先生に報告した。
「蓮花ちゃんママととても仲が良かったので驚きました。色んな状況はあるのかもしれませんが、盗聴や盗撮は許されることではありません。警察に相談させていただきますね。今回お話をしていただき、ありがとうございました。」
「こちらこそありがとうございます。よろしくお願いします…」
幼稚園では緊急集会が開かれ、警察を交えて状況を共有したようだった。

あまりにも衝撃的なことが起こり、私はとてもぐったりしてしまった。ひよりを迎えにいき、家に帰るとすぐにソファで寝落ちした。

ピーンポーン
家のチャイムが鳴ったので目が覚めた。
インターホンを覗くと蓮花ちゃんママが居た。
「ひよりちゃんママ、こんばんは。開けてくれる?」
さっきの事は無かったかのように、元の蓮花ちゃんママに戻っていた。でも、先程の事があまりにも怖かったので居留守を使うことにした。
「なんで開けてくれないの?」
段々とトーンが低くなり、表情が険しくなっていく。
私はあまりにも怖かったので、急いで幼稚園に電話し、状況を説明した。
「ドアは開けないでください。すぐに警察と向かいます。」
そう言って電話を切り、先生の指示通りドアを開けなかった。

ドンドンドンドンドン
すごい音でドアを叩いている。
「おい!お前、幼稚園にチクっただろ!出てこいよ!殺してやるよ!」
蓮花ちゃんママは物凄い大声で怒鳴り散らしている。
ひよりはあまりにも豹変している蓮花ちゃんママの姿に動揺し、泣いている。
「コラ!あんた、何やってるんだ!」
先生と警察が来たようで、すぐに警察官に取り押さえられた。
「確保!」
警察官が叫んだ。

「ひよりちゃんママ?これからも友達だよ?また絶対来るからね。」
そう言うとインターホンに向かって高笑いをした。

蓮花ちゃんママはパトカーに乗って警察署へと連れて行かれたのだった。

その後、先生と警察官と一緒に事情聴取があると言われ、このまま話すことになった。
蓮花ちゃんママは自営業だというのも全て嘘で無職のシングルマザーだった。お金に困窮しているのにも関わらず、Instagramにキラキラした生活を挙げたいが為にコピー品のブランド物や飲食代を借金して購入していたようだった。
そのため、私の生活や夫のことを一方的に羨ましがり、恨みへと変わっていったそうだ。
今後はママ友を作るのをやめ、適度な距離感で接している。
蓮花ちゃんママとはそれ以降会っていない。

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