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良いネーミングの最大のコツは「自分で考えないこと」?(前編)

 「自分で創り上げた商品やサービスの名前を自分で考えたい」と思うのは、ごく自然なことだと思う。実際、その商品やサービスについて他の誰よりも思い入れがあるのだから。

 そこをグッと押さえ、とにかく売れることや日の目を見ることを優先しよう……と思って広告代理店などの利用を検討すると、今度は費用の問題が立ちふさがる。

 いくら商品やサービスに良いネーミングをつけたいといっても、さすがに何十万、何百万ものお金をかけて広告代理店に依頼したりはできない……個人さんや中小企業さんであれば、なおさらだろう。

 仕方なく自分で商品やサービスの名前を考えてみたり、生成AIに頼ってみたりもするが、今ひとつ良いものが浮かばない……


 このようなお悩み解決のニーズを見込んでか、そういった人たちに向けてネーミングのコツを伝える伝道師的な人たちがいる。

 彼らの言によれば、ネーミングにはコツやロジックがあるのだと。また、そういう場では往々にしてネーミングの成功事例が紹介され、良いネーミングを得ることは成功の近道であるかのように紹介される。


 もちろん、彼らの話す内容に悪意は絶対にないと思う。

 では、こういうセミナーに参加したり、そういう先生たちの指導を受けたりすると、自分の商品やサービスに良い名前をつけることができるようになるのか?


 答えは残念ながら「ノー」だ。ほぼ完全に「ノー」

 理由は後述する。


そもそも、ネーミングにコツやロジックは存在するのか?

 ネーミングのコツやロジックを教えている人たちを誹謗・中傷することが本記事の目的ではない。本当だ。なので、少し問題の所在を整理したい。

 まず、ネーミングを考える際にコツやロジックは存在するのか。これは、間違いなく「ある」。コツやロジックは存在する。

 そもそもネーミングといってもその対象はさまざまであり、良いネーミングを得るためのアプローチも、対象の性質によって大きく異なるからだ。

  ↓  ↓  ↓

 たとえば、提供される価値の性質が「利便」である場合、つまり商品やサービスがお客様の日常に何らかの利便をもたらすものである場合、求められるのは徹底的な顧客視点だ。作り手の過度な思い入れなど、むしろ邪魔。お客様の望み(インサイト)を見極めた名前を考えることが勝利につながる。「鼻セレブ」や「まるでこたつソックス」が典型例だろう。

 一方で、提供される価値の性質が「優越感」や「希少性」に立脚している場合――代表例は高級ブランドに属する商品やサービス、あるいは名門校といったサービスだが、これらは下手に顧客の好みを先回りすると「顧客に媚びている」と見られ、逆にファン離れを起こしてしまう

 こういったもののファンは、提供者に「ファンを導く絶対的存在、憧れの対象であってほしい」と考えている。その唯我独尊的な自信のもと、満を持して世に送り出してくる商品やサービスにこそシビれる! あこがれるゥ! のだ。だから、こういうのは主観バリバリの俺様ネーミングで構わない

出典:『ジョジョの奇妙な冒険 第一部 ファントムブラッド』荒木飛呂彦 著 集英社刊


 また、これもネーミングの一種だとは思うけど、ノウハウ系ブログの記事みたいに検索でひっかかってなんぼのものは、兎にも角にもSEOキーワードを含めないと始まらない。

 語り始めるとキリがないけれど、書籍のタイトルだってジャンル次第でタイトル付けの文法は異なる。(顧客が)目的から選ぶビジネス書であれば、ネーミングの方向性はブログ記事のようにキーワードを含める必要が大なり小なりあるだろう。

(たまーに『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』みたいに、別次元からのアイデアが降りているとしか思えない事例もあるにはあるが)

 一方、マンガのように「作家の魂」を味わうジャンルでは、作家の表現したいテーマがバッチリ出ていればそれでOKとなる。

 だからなのか、作品自体が「架空キャラクターの伝記」ともいえるマンガのタイトルには「主人公の名前そのまま」がしばしば見られる。


 ……ちょっと話が脱線しかけたけど、およそネーミングにはTPOというものがあるため、知らないでネーミングを考えればトンチンカンな結果になる。

 これだけでも分かるだろう。ロジックやコツは確かに存在する。


 ちなみにいうと、筆者自身、名前募集サービスの開発や運営に先立ち、結構な数のネーミング本やキャッチコピー本を読んでいる。

 それらに書かれたネーミングに関するTipsやロジックひとつひとつが間違っているかといえば、別に間違っているなんて思わないし、思ったこともないのである

 ただ……


そもそも自分で自分(のもの)にネーミングするのがナンセンス。

 問題はここで、いくらネーミングのコツやノウハウがあっても、「自分の商品やサービスについて、自分でネーミングをする」際にはすさまじい困難が伴う。

 この難しさを分かっている人が、おそらくものすごく少ない。ネーミングの良し悪しを他人に教えるような人たちですら。

 それこそ、大手の広告代理店で名うてのコピーライターとして活躍したような人ですら、独立して立ち上げた自分の会社の名前や自社商品・サービスの名前となると……だったりする。

(もちろん、こういう人たちはご本人の本名と在籍していた会社名にこそバリューがあるため、このあたりのネーミングの良し悪しなど関係ないともいえる)


 名前とは本質的に、自分以外の他者が使い、覚え、語るためのツールだ

 この記事でも自分のことは「自分」なり「オレ」なりと一人称で表現しているように、フツー、人は自分自身をわざわざニックネームやフルネームで呼ばない。問題の原因はここにある。


あだ名を思い返してみよう

 子どもの頃、自分で「こう呼んで欲しい」とアピールして、それがそのままあだ名になっただろうか?

 あだ名ってのはだいたい、自分としては不本意な、しかし他人からはそう見える、言い得ているーーそんなモノに決まったのでは? そして、定着したあだ名も、もっぱら後者だったハズだ。

 このように、名前は「第三者が何度も使う」という性質上、最終的には第三者にとって使いやすいもの、座りの良いものが定着しやすいのである。


 近年の例を出すと、ホリエモンこと堀江貴文氏が新しいニックネームを募集したときの顛末が面白かった。ホリエモンに代わる新しいニックネームを募集したところ、挙がってきた中の一番人気は「ゼ○○○ン」。さすがに本人も受け入れがたかったのか(※まあ、そうだろうし。本記事も誹謗中傷を目的としていないため、ここでも伏せる)、募集企画自体が立ち消えになったようだ。

(そもそも「ホリエモン」の愛称自体、堀江氏が自分でネーミングしたものではないはず)


 同じことはビジネスにも言えて。

 たとえば士業の世界だと、そこそこブランディングをかじっている人が多いからか、積極的に○○弁護士、○○社労士、といった感じでオリジナルの肩書を二つ名のように付ける人が多い。

 ただ、正直なところ、仕事上の儀礼でその人を紹介するときか、茶化すときぐらいではないだろうか……。そうしたオリジナル肩書でその人を呼んであげる機会というのは。

 だって、呼ぶ側だって長くなって面倒だろうし

 きっと皆さん内心では分かっていると思うんだよね。自分で考えて自分につけた愛称や肩書を、他人の脳裏に定着させることの難しさは。


 ということで、整理したここまでの結論を述べるとこうだ。

  ↓  ↓  ↓

 プロや専門家からネーミングのコツやノウハウを教えてもらうことはけっして無意味ではない。むしろ有意義

 ただ、そのノウハウを、自己や自己の商品・サービス等に適用するのは非常に難しいし、その通りにやろうとしても、結果はたいてい中途半端や逆効果になる……というコトである。


 後編では、自分で行うネーミングにおいて生じる具体的な困難と、それをクリアする対策を解説したい。


>> 良いネーミングの最大のコツは「自分で考えないこと」?(後編)はこちら。


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