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「著作権の独占的利用権」という新しい囲い込みスキーム

この記事は、前の記事「著作権はもともとクリエイターの権利じゃなかったという話」の続きなので、興味がある方は先にご覧ください。


さて、前回の記事をどういう動機で書いたのかというと……

おそらく出版不況のせいではあると思うんだけど、特にこの3~4年で、クリエイターが有する諸権利へのアプローチが陰湿化・巧妙化してるんだよね。なかでも顕著なのが出版社。出版不況が極まってるからだろうけど。

特にはっきり分かるのは、出版権よりも使い勝手の良い(著作権についての)独占的利用権(※)に目をつけているところ。名目上は著作者が有する著作権を尊重する建て付けだが、悪用されてしまうと、実質的にクリエイターの著作権が無力化され、相手方に渡したも同然となる。

※独占的利用権とは、著作者による別の第三者への利用権の付与を禁じるとともに、(契約内容次第では)著作者自身による著作物の自由な利用すら制限することのできる、強力な利用権である。


そもそも「出版権」とは?

出版権の内容を規定する「著作権法80条1項各号」の内容を分かりやすく噛み砕くとこんな感じ。

  ↓  ↓  ↓

「出版権とは、紙や電子書籍などのいわゆる冊子系媒体を、公衆に広める目的をもって、(原則として)原作そのままの形で複製・販売する権利である」

出版社は長らく、著作権者(厳密には「複製権保有者」)からこの「出版権」を付与してもらうことで、本を出版・販売して収益をあげてきた。


ただ、この出版権、クロスメディア展開が当たり前になってきた現在では、原作から派生するさまざまな表現形態についてカバーしきれていなくて。

たとえばキャラクター商品化権やアニメ化、ゲーム化といった展開においては、個別に契約を結ぶ必要があった。


また、出版権を設定した場合には、出版社側にもそれなりの義務や面倒が生じる。

  ↓  ↓  ↓

  • 原稿を預かってから、原則6ヶ月以内に出版しなければならない

  • 出版権には年限がある(特に定めなければ3年で満了)。

  • 出版権の契約年限が満了した場合、その後は作者側から(出版権を)解除し、別の出版社に設定し直すことも可能。

  • 出版権は、文化庁に登録しなければ第三者に対抗できない

  • 重版をかける際には作者への通知が必要である。(=印税額の基準となる発行部数にウソをつけない)

……意外とめんどい。特に最後(笑)。

ところが、近年の著作権法改正により、この出版権の制約を回避し、著作者の権利を(実質的に)無力化できるスキームが爆誕してしまったのだ。


鍵となった著作権法の改正(令和2年改正)

(利用権の対抗力)
第六十三条の二 利用権は、当該利用権に係る著作物の著作権を取得した者その他の第三者に対抗することができる。

引用元:e-GOV 法令検索 著作権法
https://laws.e-gov.go.jp/law/345AC0000000048#Mp-Ch_3-At_79

どういう意味を持つのか、従来制度との比較で解説したい。


従来制度では……

著作権について利用権を設定してもらったところで、著作権者が利用権者の立場をガン無視して別の第三者に著作権を譲渡してしまった場合、その利用権者は、新しい著作権者と利用について、もう一度契約を結ばなければいけなかった。

利用権なんて設定してもらったところで、利用権者の(法的な)安全は確保されていなかった。だから、従来は外注クリエイターさんに著作物をオーダーした場合、必ず著作権の(包括的な)譲渡契約と著作者人格権の不行使特約を結ぶ必要があった。

利用権なんてもらっても、実質的には役に立たなかったワケである。


改正後の制度では……

この利用権が「第三者に対抗できる」ようになった。

つまり、上述したケースにおいて、「こっちは以前の著作権者と正式に利用契約を結んでるんだから、(第三者の)お前が以前の著作権者から著作権を買い取ったからといって、あーだこーだいわれる筋合いはねえ!!」と言えるようになったのだ。

これによって、利用権の価値が向上し、なんならクリエイターに対して従来のように半ば強引な形で著作権の包括的な譲渡を迫る必要がなくなった。


ところが……

勘の良い人なら気付いたかも知れない……


そう。

この改正により、利用権があまりにも便利かつ強力に生まれ変わったため、もはや出版権の設定が不要になってしまいかねないのだ。

そして出版社が、出版権の代わりに著作権についての独占的利用権を付与してもらうと……

かつての出版権であれば必要だった作者への配慮や義務を不要にでき、出版権でカバーできなかった商品化やアニメ化、ゲーム化等についても包括的に掌握できる


独占的利用権に基づくと、上の方で書いた出版権の面倒さはこうなる。

  ↓  ↓  ↓

  • 原稿を預かってから、原則6ヶ月以内に出版しなければならない。
    出版権じゃないので、そんな義務はない。

  • 出版権には年限がある(特に定めなければ3年で満了)
    独占的利用権に年限を定める義務はない。
    ⇒絶版になった場合にこっちから手離す義務もないよ!

  • 出版権の契約年限が満了した場合、その後は作者側から(出版権を)解除し、別の出版社に設定し直すことも可能。
    出版権なんて結んでないので、解除も何もない。ただ、こっちは独占的な利用権をもらってるんだから、アンタ(作者)、もう別の出版社に出版権なんて設定できないよ?

  • 出版権は、文化庁に登録しなければ第三者に対抗できない。
    ⇒そんな義務はない。

  • 重版をかける際には作者への通知が必要である。(=印税額の基準となる発行部数にウソをつけない)
    そんな義務はない。
    ⇒つまり、別途に売上同報(※)などのフェアな仕組みを用意しない限り、販売部数をごまかされるリスクがつきまとう。

※ ひとつの例として、作品が1部売れるたび、自動で出版社と作者の両方に同じメールが飛んでくるといった仕組みが必要になる。


……前回の記事で「著作権はクリエイターのための権利じゃない」と述べた意味をお分かりいただけただろうか。

著作権法は、クリエイターに対するこれほどの一方的な契約さえも、明文では禁じていないのである。

(※次の記事のネタバレになるのであまり書きたくないけど、著作権法以外の法律を読むと対抗手段はあり得る)


このスキームで最も苦しめられるのは……

ずばり新人作家、もっというなら新人賞の応募者である。
売れっ子作家と違って交渉の材料になる実績もノウハウもないから。

近年の小説とかライトノベルの新人賞の募集要項を見ると……

この先は、慎重さと勇気を求められるので、次の記事で(笑)

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