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大晦日の夜のインザ・ミソスープ
12月29日。
新宿で風俗ガイドをしている青年ケンジがアメリカ人観光客から大晦日まで3日間、風俗ガイドを頼まれる。
12月30日。
ふたりで訪れた新宿歌舞伎町のパブで、そのアメリカ人観光客は、帽子掛けから帽子が落ちたから拾ってまた帽子掛けに掛けたように、客やボステスやボーイを次々と殺していく。
12月31日。
幼い頃から殺人の味を覚えた、無差別殺人者となったアメリカ人観光客はケンジに言う。
「なあ、ケンジ、その鐘は、イヤな部分を全部消してくれるんだろうか?」
BONNOUなるものを消し去ってくれる、除夜の鐘が聞こえるところに連れて行ってくれ、と頼む。
アメリカ人観光客は、除夜の鐘を聞くために集まってきた人々の群れの中で、味噌汁(ミソスープ)について語る。
野菜の切れ端だのなんだのが、が混じっていて、色が奇妙なブラウンで、まるで人間の汗のような匂いがする。
今のぼくは、あのときの小さな野菜の切れ端と同じだ。巨大なミソスープの中に、今ぼくは混じっている。だから、満足だ。
村上龍の1997年の小説「インザ・ミソスープ」
龍さん、こんな小説が読みたいよ。ああ、もうすぐ除夜の鐘が聞こえてくる。