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本に愛される人になりたい(94) 岡本太郎「沖縄文化論」

 少し古い書物を手にとるときに気をつけているのが、それがいつ書かれたものか。そして、その時の筆者の感覚を通して語られていることをしっかり理解することです。ともすれば、アーだコーだと、ピーチクパーチクうるさい評論家的な(的なのです)お小遣い稼ぎの輩がいて、「岡本太郎は沖縄を知らない」とか「素晴らしい!」だけとかに陥りますから、そーした阿保なお小遣い稼ぎの言葉を完全無視をして、素直に私と1970年代初頭に沖縄の地にいた岡本太郎との会話をしたいと考えています。
 本書は、大阪の万博が終わった直後。1972年5月15日の沖縄返還直前に沖縄の地に身を置いた岡本太郎の率直なルポルタージュです。
 お読み頂ければすぐに驚かれるかと思いますが、彼の言葉は率直です。なんでもかんでも、沖縄は素晴らしいとする風潮など無関係で、その魂のあり様にはグッと考えるものがありますが、貿易都市としての上っ面な造形には厳しい言葉を投げかけます。ところが、ボロボロの服を着たオバァの姿に感銘を受けたりもします。
 どこかの土地のことをおおぐくりで語るときに、誰かの文法を使って語る方が何も考えずに楽なので、ましてやSNSが普及してしまったいま、誰も嫌な思いをしないから、そのプラスチックコーティングされたような言葉や動画が満載の時代だからこそ、岡本太郎の美に対して至極真剣な男の眼力を通して見た沖縄の文化を語る本書は、気持ち良いものです。
 どこかのフレーズを持ち出すとネタバレになるので、最後に一言だけ。誰かの文法に乗っかった語り口は、無意味であることを、本書は教えてくれます。つまり、ダサい。中嶋雷太

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