ビーチ・カントリー・マン・ダイアリー(13):「海辺と洗車と赤錆と」
昨年10月、数十年暮らした東京・世田谷から湘南・片瀬海岸に引越し、日常生活での細々とした変化に少しずつ気づき始めています。
例えば、玄関には絶えず砂が落ちていたり、ベランダの窓には潮が乾いたあとが点々と残っていたりと、海辺暮らしならではの変化が現れました。他にも、まだ気づかぬことが、これからも現れてくるのでしょうが、それもまた楽しみとしています。
引越し直前に、世田谷で車の整備を長年お願いしていた方から、湘南の海辺に引っ越せば、必ず車体の下というか底を定期的に洗車してくださいと言われました。洗車といえば車のボディを洗うイメージがありましたが、大雨が降ると海からの潮が車体の底にも付着して錆の原因になるとのことでした。放置すればボロボロになると脅されたわけですね。
実感がないまま、湘南の海辺に引越しましたが、ご近所を歩いていると、確かに錆ついた鉄があちらこちらで目につきます。特に自転車。自転車置き場などに停められている自転車を見ると、チェーンだけでなく、リムやスポーク、ハンドルや車体の鉄むき出しの部分が赤茶色に錆ついています。この町に並び建つ家々も、目を凝らして見ると、鉄むき出しの部分が見事に錆ているのがよく分かります。少し散歩して辻堂海岸あたりに行くと放置された小型ブルドーザーが錆錆になり朽ち果てていたりもします。海辺の風景がどことなく鄙びて見えるのも、ここかしこに錆の赤茶色がその風景に沈み込んでいるからのようです。
湘南ナンバーの車も、ボディ部分は綺麗に洗車されていたとしても、その下、車体の底はかなり錆ついているのかもしれませんが、我が愛車は長年乗っている素敵な相棒で長生きしてもらいたいので、車体の底の洗車を欠かさぬようになりました。
「海辺は錆が大変」ですが、とはいえ、それもまたこの町の心象風景を形作る大切な要素で良いのだと思うこのごろです。サーフボードを載せた赤錆だらけの古びた自転車で、サーファーが自慢げに浜辺を走る姿を眺めながら、私はニヤリと笑みをこぼし楽しんでいます。中嶋雷太