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本に愛される人になりたい(79) 五木寛之「海を見ていたジョニー」

 近ごろ、五木寛之さんの初期の短編を読み返しています。読書欲という欲求はじわりじわりと、地殻深くのマグマのように地中を這い上ってきて、ある日突然大地に地割れを起こし、吹き出すもので、今回も唐突に「初期の短編を読みたいなぁ」と読書欲マグマが吹き出しました。
 彼の作品の主なものは読んできており、その初期の短編の数々も読み漁ったはずなのですが、ストーリーというよりもそこに刻まれた情感だけがぼんやりと、けれど強い重力を持って記憶に残っているだけでした。
 書棚に眠っていた「五木寛之小説全集」を一冊一冊手にとりながら、その第二巻のタイトルに引きつけられました。それが、「海を見ていたジョニー」です。
 このストーリーの背景にはベトナム戦争があり、ピアノ・バーで働く主人公の少年も、黒人兵のジョニーも、誰もがその時代の空気を吸っては吐きをしています。ある日姿を消したジョニーが突然帰ってきますが、ブルーズのピアノが弾けなくなっています。
 軍港のある港町の夜、トランペットを手にした少年は、黒人兵ジョニーという一人の男の生死を目の当たりにし…。
 短編なので数十分で読み終えられる作品ですが、数十年前に読んで抱いた、十代の私の情感の塊を思い出しながら読み終えました。それはとっても幼いものでしたが、雑草の青臭さがぷんぷん臭うとても野生的な情感でした。それは、ちょうど、この作品で描かれている少年が抱えているものに近しいものでした。
 小説を読む楽しみは、新作だけではなく、かつて読んで楽しみ、眠らせていた情感に出逢うこともあるかもしれません。
 数十年立ってから同じ作品を読むのも、たまには良いものです。中嶋雷太

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