マイ・ライフ・サイエンス(10)「空気を巡るあること」
空気=酸素ではありません。と、冒頭から言い切ると気持ちの良いものです。そして、これを読まれた方は「そりゃそうだ」と何の感慨もなく、その先にドラマ性なども期待されないと思います。
けれど、何故だか空気=酸素だというイメージが世の中に薄く空気のように蔓延しているようです。空気を吸って肺から血中へ酸素が送られる、ということがあまりにも常識的なので、気づけば空気=酸素というイメージがなんとなく、そして確固として出来上がっているようです。生きていて、わざわざそれを確認することもなくて、義務教育課程で学校の先生から教えてもらったまま、この空気=酸素というイメージを抱き、人は死ぬまで気にもかけないはずです。スキューバ・ダイビングでも背中に背負うのは「酸素ボンベ」と呼び「空気ボンベ」とは呼びません。あれ、空気が入っているんですけれどね。
この空気の成分ですが、およそ窒素78%、酸素21%、アルゴン0.93%、炭酸ガス0.03%、そしてわずかに一酸化炭素、ネオン、ヘリウム、メタン、クルストン、一酸化二窒素、水素、オゾン、水蒸気などで構成されています。
高校生のころ、SF宇宙ものの小説に凝っていて、ある小説で、地球から火星に移住した地球人の話があり、空気が火星に何故存在するのかがはっきり書かれていなかったので、空気について調べてみました。その頃は、漠然とですが、空気は「酸素とかが混っている」という程度の知識しかなかったので、改めて調べてみて、空気を構成する物質の多さに驚いたものです。
JAXAのウェブサイトで国際宇宙ステーションの空気はどうなっているのかを確認すると「地球上の空気は、約21%の酸素と約79%の窒素から構成されています。厳密にはその他の微量な成分も含まれていますが、この2つさえあれば十分です」とありました。あっけない説明です。何かを隠しているに違いないと疑いたくなるほど、あっけない説明です。
とは言え、です。
空気に78%もある窒素や0.93%のアルゴンや0.03%の炭酸ガスなどは肺に送られたあとどうなっているのかが気にかかります。
生物の体を構成するタンパク質を作るには窒素が欠かせないのですが、動物は食べ物からしか窒素をとりこめないので、呼吸でせっかく吸った窒素は、吐き出されるようですが、ここで「吐き出したもの=二酸化炭素」というぼんやりしたイメージが確固としてあるので、ちょっとここでも疑問符が立ち上がります。「吐き出したもの=窒素、二酸化炭素ほか諸々」じゃないかと。ただ、ここまで話を広げると面倒なヤツになりますので、吐き出したものについては、今回は目をつぶります。
空気を構成する78%の窒素やその他の気体たちは体内に取り入れられますが、酸素だけが二酸化炭素に変わっただけで、二酸化炭素と一緒にその他の気体たちも吐き出される、というのが正解だと言い切ってこの話は強制的に終わります。
さて吸い込んだ窒素です。窒素は何の役にもたたないというのは本当なのだろうかという疑問が未だに残ります。わずかながらも何らかの作用が体内に働いていないのだろうかと。例えば、窒素が肺に送られるや肺の細胞は窒素を関知して、生命維持の為の何らかの信号を肺の細胞から脳へと伝達するとか…。酸素量そのものではなく、窒素量で酸素量を測るとか…。生物史学的にいえば、窒素78%と酸素21%という空気が、現在までの生物にとり最適な空気だったのは間違いありません。進化論的に言えば、窒素78%と酸素21%という空気に適合したのが現在までの生物だとも言えます。
とは言え、疑い深い私は、じゃあ空気は酸素100%で良いのか?と考え、酸素ばかりといえばと、病院などで使用される酸素吸入器だと、酸素吸入器について調べてみました。すると、日本救急医学会のウェブサイトに「酸素中毒」なる言葉がありました。これはお医者さんや看護師さんなら常識の話に違いありませんが、その「酸素中毒」について「過剰な酸素が,生体の解毒機能を超えて有害な作用をきたした状態。障害の主な標的臓器は中枢神経系と肺である。2‐3気圧以上の高い分圧の酸素を吸入する高気圧酸素療法では,生体の細胞代謝が障害され,心窩部や前胸部の不快感・嘔吐・めまい・視野狭窄など,時には短時間で痙攣発作と昏睡がみられることがある。これが急性酸素中毒である」
ということは、です。空気は100%酸素であってはいけなくて、21%ぐらいがやはりちょうど良いようです。ここでは高気圧酸素療法として発生する障害についての話ですからなんとも言えませんが、つまり、窒素(やその他の気体)は少なくとも酸素中毒にならない為には役立っているようです。
はっきりしない窒素たちの存在理由の為にも、しばらくはこの謎を追っていこうかと考えています。おそらく、国際宇宙ステーションに関わっているJAXAならこの窒素の謎を解き明かしているに違いないと睨んでいる私です。
実は、空気を巡るカメハメ波と金魚の話も綴りたかったのですが、それはまた別の日に。中嶋雷太