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悲しきガストロノームの夢想(65)「ホットケーキ」

 子供のころ、大人になったらたらふく食べたい!と思っていたものの一つがホットケーキでした。甘いシロップにバターをたっぷりのせたとてもシンプルなホットケーキです。
 そのホットケーキですが「ちびくろサンボ」と密に重なっています。
 私が幼稚園児のころに好きだった絵本「ちびくろサンボ」のビジュアルがハナタレ小僧の私のちっぽけな脳にくっきり刻まれ、それ以降未だにホットケーキといえば「ちびくろサンボ」のビジュアルがふと現れます。虎がぐるぐる回り早く回り過ぎてやがてバターになり、ちびくろサンボはそのバターを家に持って帰って、お母さんにパンケーキを作ってもらいます。「ちびくろサンボ」を読み終えるたびに、ホットケーキへの衝動が高まった私は、母に作って欲しいと駄々をこねていたはずです。
 この「ちびくろサンボ」ですが、原題は"The Story of Little Black Sambo"で、作者はヘレン・バンナーマンというスコットランド出身の女性です。軍医の夫とインド滞在中に手作りで作られ、1899年に出版社から発行されました。そのあと"Story of Little Black Mingo"(1901年)、"Story of Little Black Quibba"(1902年)とこのシリーズは発行されたようです。
 2008年ごろから日本でパンケーキ・ブームが始まりましたが、やり過ぎ感のあるビジュアルとキャーキャーしたのが好きではない私は、そっぽを向いていました。ハワイのオアフ島のエッグスン・シングス本店で何度か食べたことがありますが、おそらく、日本にお店を構えるやさらに色とりどりになったのだろうなとは思いますし、企業努力としては素晴らしいことです。さらに色々なフルーツが盛られたり、ホイップバターなどで味の幅も広がったのも面白い現象だと思ってはいましたが、ただ、私は先ほど綴ったとおりで、一時的なキャーキャーで長い行列を作っているのを見ると「なんだかなぁ」と冷めた目になっていました。食の流行を作り出す方や、それを知っていてキャーキャー騒ぎながら一時的な流行を楽しむお客さんたちは、それはそれで良いのだと理解していますが、それは、私のホットケーキに込めてきた愛とは異なるものだと割り切っています。さらに、そこまでして外で食べるぐらいなら、自宅でのんびりとベーシックなのを焼いて食べた方が良いというのもありました。コストパフォーマンスが良いのもあります。
 社会人となり給料をもらうようになると、森永のホットケーキ・ミックスは常備食品となりました。月に何度か食べたくなるだけですが、200グラムの粉に卵一個と牛乳140ccを混ぜ、三枚ほど焼いては、シロップ(アガベー・シロップですが)とバターをたっぷりかけ、フォークとナイフでひと口切っては口に運ぶ快感はなんとも言い難いものです。溶けたバターとシロップがからみ合い…たまりませんね。
 見た目は昔から何も変わることのないシンプルな我がホットケーキですが、「ちびくろサンボ」以来のホットケーキ愛は変わることはないようです。たらふく食べたいとは、もはや思えなくなりましたが。中嶋雷太

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