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私の好きな映画のシーン(13)「まぼろしの市街戦」

 1970年代、私が中学生だったころ、本作を初めてみたのはテレビでした。
 第一次世界大戦下のフランスのある街。ドイツ軍が仕掛けた爆薬を撤去するために斥候としてあるイギリス軍兵士が街にやってきますが、楽しそうな笑顔の住民に出逢います。実は、住民は全員避難し、精神病院に残された患者たちの姿でした。やがて、戦火が再び始まると、町にいた患者たちは表情を強ばらせ精神病院に戻って行きます。そして、その斥候の兵士も…。
 戦争が孕む「狂気」を教えてくれたのが本作でした。戦争コメディ映画というジャンルでは括れない、フランス映画の厳しい皮肉も混じる、なんともいえぬ作品に、安穏と生きていた中学生の私は、少しだけ大人になったようでした。
 町に入ってきたイギリス軍とドイツ軍が撃ち合い、それを見た精神病院の患者たちの表情が突然強ばり、彼らは無口となり、そして精神病院へと戻ってゆく。そのシーンは、いまでも痛烈な印象をともなって記憶しています。
 故・淀川長治さんが映画が先生だったと話されていましたが、本作日もまた、私が生きていくための先生となりました。
 邦題は「まぼろしの市街戦」ですが、英語題は「King of Hearts」です。
 フランス風の痛烈でシニカルな作風を学んだのも、本作だったと思います。中嶋雷太

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