私の好きな映画のシーン(54)『火星年代記』
「映画は私の学校だ」と言ったのが映画解説者の故・淀川長治さんだったかと思うのですが、私にとっても映画は、学校や図書館や社会で学んだこととは異なる、古今東西様々な人間模様を学ばせてもらった学校です。
さて、今回は『火星年代記』のお話です。Facebookかどこかで『火星年代記』について書き綴ったような記憶もあり、重なるところもあるかもしれませんが、お許しください。
この作品に最初に出会ったのは、レイ・ブラッドベリ著『火星年代記』という小説でした。1950年に出版されたSF小説で、SF小説にハマっていた高校生のころ、早川SFシリーズを買って読んだはずです。ただ、翻訳者のせいではありませんが、小説ではどこかぼんやりとした映像しか浮かんではこなくて、それほど「面白い!」とは思えず、読み終わると書棚のどこかに眠らせました。
そして、大学生になったある日、確か毎日放送(おそらくTBS系列)で、この作品を原作とした映像に出会いました。
紐解くと、1979年に、アメリカNBCとイギリスBBCが共同製作した4時間を超えるテレビ・ミニ・シリーズで、監督は『80日間世界一周』、『1984』や『さらばベルリンの灯』などのマイケル・アンダーソン。そして主演はロック・ハドソンでした。監督がマイケル・アンダーソンというのはしっくりしたものの、主演がロック・ハドソンというのが、この作品にはどうも合ってないという感じがしましたが、4時間を超えるこのミニ・シリーズを三つのエピソードに分けて放送され、その世界観にどっぷりとハマっていくにつれ、ロック・ハドソンが主人公のワイルダーそのものに見えてきました。(ロック・ハドソンについては、別稿で長々と語りたいものです)
本作のストーリーは、ぜひ原作かブルーレイで楽しんで頂くとして、私が惹かれたのは荒涼とした砂礫地帯のような火星の大地の描写そのものでした。未知の火星の大地は、心が不安になるほど荒涼としていて、それがそのまま火星に移住した地球人の心象風景のベースに沈澱してあり、さらに見る者もまたその心象風景に我が身をおき物語に巻き込まれる快感を楽しめます。
映画とテレビ・ドラマ・シリーズとは異なりますが、本作放送の2年前に劇場公開されたスペース・オペラと銘打った『スター・ウォーズ』の派手やかで楽しい世界観とは真逆をゆく『火星年代記』に、私は心惹かれました。
あれやこれやとバタバタ生きた大学生時代に、改めて日本語訳の原作を手にして読み返してみると、映像が立体的に浮かんでくるのを楽しむ私がいました。そして後年、英語の原書を読んだとき、『火星年代記』はさらに私に迫ってきたのを覚えています。
『火星年代記』を巡りこうして書き綴っていて、「映画は私の学校だ」とつくづく思う私です。
いつの日か、『火星年代記』のような乾いたSF物語を書いてみたいものです。中嶋雷太
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