見出し画像

私の好きな映画のシーン(21)「鉄道員(ぽっぽや)」

 もの心ついたころから映画が好きで、実家が太秦にあったころは、任侠映画全盛期から一気に邦画のどん底の姿を目の前で見て、それでも映画が好きで見続けてきました。もちろん、映画好きな両親のおかげですが、もの心つきしばらくすると、観たい映画のことを自分で考えるようになっていました。とても、自然に。
 1990年から映画を中心としたエンタテインメントの仕事(WOWOW)を生業にし、国内外の様々なエンタテインメント・ビジネスの裏側に携わるなか、シンプルに観客として映画を楽しむという気持ちが、残念ながら薄れていったようです。眠る暇などない日々、特にアメリカやヨーロッパとの大きな契約交渉などに携わると、毎週海外出張だったり、日本の自宅にいても朝はアメリカ西海岸の夕方、そしてヨーロッパが明け、夜にはアメリカ東海岸が明け……と24時間体制での日々。いつしか、映画を純粋に楽しむ心が失われていたようです。
 『鉄道員(ぽっぽや)』が映画公開されたのが1999年。私が国際課の課長としてフル稼働し、翌年にはロサンゼルス事務所所長として渡米する前年で、文字どおり寝る暇などない日々でしたが、この映画の原作、浅田次郎さんの「鉄道員」をたまたま読んでおり、そしてなんと言っても高倉健さんを銀幕で観たくて、劇場に足を運びました。(しかし、銀幕という言葉は死語になりました^_^)
 愚直に生きる乙松(高倉健)は、生後2ヶ月で病死した娘や最愛の妻の死にも立ち会わず、愚直なまでに駅での「ぽっぽや」の仕事を務めた男です。ある日、乙松の幌舞駅に見知らぬ女の子が現れ…。北海道のとても小さな駅で働く無骨なだけの男の静かな日常にふと訪れた春のような作品でした。
 真冬の幌舞駅で機関車を見送る乙松。そこには、幌舞駅に行き交った人たちの魂が静寂の「寂」として降り積もっているようでした。
 後年、車で富良野を旅したときに、架空の駅幌舞駅としてロケ地となった幾寅駅を訪ねたのは、いうまでもありません。中嶋雷太

いいなと思ったら応援しよう!