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ホラー 手形

前書き
1日一作6本目です。
即席で書いているのでベタな展開になりがち……
今回も日記帳に記入したものを添削しながら投稿いたします。

手形

いじめは絶対に許さない。
けれどあの時に限っては、学校に行けなくて良かったと思った。

私は小学校4年生くらいの時、いじめにあっていた。自分に自信が持てず、見た目もあまり良くなかった私は標的にされてしまったのだ。
ものを隠されるところから始まり、悪口をわざと聞こえるように言われる、机に罵詈雑言を書かれるなど次第に行為がエスカレートしていった。最終的には殴る蹴る、頭からバケツの水をかぶせられるといったところにまで発展していた。
限界が来た私は、しばらく学校に行けなかった。その頃のことだった。
学校から郵送されてきたお便りの内容を母がしゃべっていた。季節の変わり目ということもあってか、精神的に参り学校を休む子が増えているそうだ。
それを聞いた私は、正直この内容が嘘だと思った。いじめが先生の見ていないところで行われているか、見て見ぬふりをされているかで病む子が出ているだけではないかと思った。が、学校に行っていなかったので他人事のように思え、あまり気にしていなかった。
しかし、この内容をしばらくして思い出すことになった。

しばらく学校を休んでいたが、このままでは学業に支障が出ることは心配だった。せめて周りに遅れをとらないようにしなければ。そこで、保健室登校で授業のプリントなどできないかと考えた。
親にも相談し、学校側にも話をつけ、私は再び学校に行くようになった。
ある日、保健室の先生と話しながらプリントの問題に取り組んでいると、授業中にも関わらず誰かが泣きながら駆け込んできた。具合が悪ければこんな風に走っては来れないだろうが、何があったのだろうか……と思っていると、なんと入ってきたのは私をいじめていたリーダー格の女子だった。
私は気づかれないようカーテンの裏で静かにしていたが、彼女の息は切れていたし、泣いていたのか鼻をすする音がした。

結局彼女はしばらく休んだあと、授業に復帰した。しかし、その子を教室に帰したあと、先生の微かな呟きが聞こえた。

「もう10人目かなぁ。怖……」

それからしばらくして彼女は学校に来なくなり、引っ越した。
私はその後、普通教室に何とか復帰したが、その時クラスメイトが彼女についてこう言っていた。
「◯◯ちゃん、変なものが見えるって嘘つくようになったんだよ。私たちには何にも見えないし、何にもないのに。」
噂では、虚言癖がついたのか嘘ばかり言うようになったらしい。そして、クラスに居づらくなったか精神を病んだかで引っ越したらしいが、真相は定かではない。




違う。多分逆だ。虚言癖がついてから病んだんじゃない。
彼女は、変なものが見えるようになって病んでいったんだ。嘘つき呼ばわりされたとか、居づらくなったとかはおまけみたいなものだと思う。

彼女が保健室に飛び込んできた日。彼女は先生に震える声で言っていた。


朝、友達と話していて、ふと机を見ると、びっしり赤い手形が付いていた。驚いてもう一度よく見ると消えていた。
が、次はトイレに行った時だった。鏡を見ると、知らないおかっぱの女の子が後ろに立ってこちらを睨んでいた。
顔も体もぐちゃぐちゃで、血か何かで真っ赤になった女の子が。俯いていたが視線の先はしっかり彼女を捉えていた。
彼女は恐怖でしばらく動けず、何とか振り返って見ても誰もいない。恐る恐るもう一度鏡を見るとまた赤い手形がびっしり付いていた。
彼女の悲鳴を聞き、友達が駆けつけた時には何も無かったように手形も女の子も消えていた。
そして、授業中。ふと窓の外を眺めると、先ほどトイレの鏡に映った子が同じように外からこちらを睨んでいた。
教室は校舎の3階にある。そして、窓の外にはベランダなどもない。そんなところからこちらを眺めるなど不可能なはず……。

彼女は繰り返される現象に怖くてたまらなくなり、教室を飛び出して保健室に駆け込んできたーー。


私は彼女を許す気にはなれない。けれど、彼女の見た「変なもの」は本当にいたんだと思う。
お便りの、「精神的に参って学校を休む子」、先生の呟き……。
彼女を最後に、心の不調を訴えて休む子が出たとは聞いていない。彼女の言う「変なもの」は、積極的に他人に悪さをする子にしか見えていなかったのではないか。だから彼女はおかしくなった上、周囲の信頼も失ってしまったのではないかと思う。

彼女がいなくなってから、私はかなり快適に学校生活を送ることができた。でも、安心はできなかった。

もし私も、他人が嫌がる言動をしてしまったら。せっかく学校に行けるようになったのに、転校する羽目になってしまう。「変なもの」は、人知れずどこかで見ている。

絶対に、故意に人を傷つけない。私は強く心に誓った。

手形 了
※この物語はフィクションです。実際の事件・人物・団体等とは一切関係ありません。

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