ホラー おいていかないで
前書き
1日一作日記がわりに書いてます。
3作目。
今回も日記帳に書かず直接アプリで作成しております。
小さい頃、日本昔ばなしの「おいてけ堀」が好きでした。
※自殺、醜形恐怖症を連想させる内容が含まれます。ご注意下さい。
おいていかないで
ことの発端は下校時のことだった。
私はゲームをするのが好きで、そのために学校に遅くまで残らないようにするタイプだった。
しかし、その日は部活動の片付け当番が長引いてしまった。普段一緒に当番をしている部員が、体調不良で学校を休んでいたから時間がかかってしまった。
長かった夏休みも終わりに近づき、日が経つにつれ暗くなるのが早くなっている。当番が終わって帰る頃には、すでに日は落ちかけ辺りが薄暗くなっていた。
校門を出てまっすぐ道路を進むと、家1個分くらいの広さのため池がある。そのあたりから分岐した、少し細くなった道に入る。いつもの通学路だ。
ため池にはコイが泳いでいて日中は見る人を和ませるのだが、夕方がすぎると周辺に植えられた柳の木々の間がより暗さを増し、枝が風に揺れて気味悪く感じられる。
私はなるべく早足でため池を通り過ぎるようにしていた。
しかしその日はこの時間には珍しく人がいた。学ランを着ていて、背丈は自分と同じくらい。自分が通う学校の男子制服はブレザーだし、違う学校の子らしい。柳の木の隣でこちらに背を向け、突っ立っている。何かあったのだろうか。歩きながら声をかけようか逡巡したが、面倒ごとには関わりたくない。何も気にしてないふりをしていつも通り早足で通り過ぎようとした。
「………………いで」
「えっ?」
声をかけられたらしい。思わず立ち止まり、返事をしてしまった。無視した方が良かったのに。
「……………ないで」
彼は再び呟いた。
背を向けて何かを小声で話す異色の光景に、私は思わず一歩二歩と後ずさった。
「………いかないで」
彼はゆっくりこちらを振り返った。
「おいていかないで」
そう言っていた彼の顔には、喋れるような口が無かった。鼻も、目も、眉毛も何もない、のっぺらぼうだった。
私は状況が飲み込めず、数秒彼の顔を凝視した。そして、一目散に走って家まで逃げ帰った。
このことを家族に伝えると、疲れているのではないかと心配はされたが信じてはもらえなかった。続くようなら相談しなさい、と言われてしまった。
仕方なく、近くに住む同級生と連絡をとり、ぼっちは嫌だからと適当な理由をつけ、翌日から一緒に登下校して欲しいと頼み込んだ。
恐怖で頭から布団をかぶり、何も見ないようにして眠った。
翌朝、同級生と何事もなく登校することができ、とりあえず学校に着いてしばらくは安心していた。そう、しばらくは。
授業中、恐怖でよく眠れていないのか、私はうたた寝をしていた。
「おいてかないで」
耳元で聞こえ、飛び起きる。
一瞬のことなのに、首には汗が伝っていた。そういう日が何日か続き、同級生と登下校を共にするようになってからも、いつ聞こえるかわからない呟きに怯え、眠れない日は増えていった。
ある日、帰り道、同級生が私に尋ねた。
「最近元気ないけど、どうした?今日も寝てたし、クマ酷いよ〜?」
心配してくれていたようだ。どうやら他人が見てわかるくらい、私はやつれていたらしい。私はあの時のことや、それから聞こえるようになったあの声について打ち明けた。
「えー!?ちょっと、急にそんな怖い話しないでよ!!てか、ここで!?無理無理無理!!」
絶対お祓い行った方がいいって!と叫ぶ同級生と、ダッシュで例のため池を通り抜けた。
息を整えながら、再び同級生と歩き出した。
「あ」
同級生が何かに気付いた。
「もしかしてその、顔の無かった男子って……」
同級生は掲示板の張り紙を指差す。
「探しています」「心当たりがある方は、些細なことでも警察への情報提供をお願いします。」顔写真と共に、そんな文が並ぶ。どうやら内容は人探しのようだ。
「こういう顔じゃなかった?」
張り紙の顔写真に写った人物には、顔など無かった。
おいていかないで 了
おまけ
⬛︎⬛︎年⬛︎⬛︎月⬛︎⬛︎日の、とある地方新聞朝刊
⬛︎⬛︎市⬛︎⬛︎の男子高校生、行方不明
⬛︎⬛︎市⬛︎⬛︎に住む、⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎君の行方が分からなくなっている。
⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎君は⬛︎⬛︎日、学校から下校していくのを同級生が目撃したのを最後に行方が分からなくなっている。遅くまで帰宅しなかったのを心配した両親が学校に連絡し、学校にも残っていないとのことで警察に通報があった。後の同級生への聞き取り等から、行方が分からなくなったのは⬛︎⬛︎月⬛︎⬛︎日の午後17時頃と見られている。また、⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎君の自室には遺書と見られる手書きの文章が残されていることから、自殺を図っていた可能性も高いとして警察は捜査を急いでいる。
心当たりのある方は、些細なことでも構いませんので、警察までご連絡お願いします。
おまけ2
ある高校生の手紙
お父さんお母さんへ
この顔が嫌いでした。見るのも嫌でした。
周りの子は皆、自分を汚いものだと思っているみたいです。自分だけ、皆の輪から取り残されたみたいに思います。
自分が生きている限り、これからも怪奇の目で見られるんだろうと、おいてけぼりにされるんだろうと思います。
お父さんお母さん、愛しています。けど、ごめんない。あなたたちは何も悪くないです。容姿を良くしようと、努力をしなかった自分のせいです。でも、もう無理そうです。本当にごめんなさい。
⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎より
※この物語はフィクションです。実際の事件、人物、団体等とは一切関係ありません。