真空管xトランスxDSPが生み出す「どこまでも伸びる」リバーブ 機材師レビュー Vol.05:Tegeler Audio /Raumzeitmaschine【音声付き】
1、実機のリバーブってアリ?
DTMが当たり前になった現代の音楽制作では、リバーブってプラグインで使うものじゃないの?って思う方も多いと思います。
プラグインがなかった時代はどうやって、空間系を演出していたかというと実機のプロセッサーたちがその役割を担っていました。
代表的な実機といえばLexicon 480L/224やAMS RMX16などですね。そのどれもが数十年前のレコーディングスタジオでは大定番でした。現在となってはオリジナルの個体は数少なくなっていますが、いまだに現役の個体も日本でも見られます。
そのような実機を元にしたプラグインも数多くのベンダーからリリースされていますよね。実は実機リバーブは元ネタとなっている個体自体はそれほど種類がないので、上にあげた実機のどれかのモデリングを持っている方は意外と多いのではないかと思います。
DAWが無い時代、ミキシングはいわゆるSSLなどのレコーディングコンソールを用いて、テープレコーダーに記録をしていました。もちろんプラグインなどないので、Lexicon 480L等の実機を使ってミックスを行うのが通常でした。
しかしながら現代ではDAW上でのプラグインの台頭により、ミックスで実機のリバーブを使う場面はかなり限定的です。
従ってスタジオに実機リバーブを設置しなければならない場面というのは比較的限られてきています。
現行機種ではBricastiのM7やLexixon PCM96など数少ないながらも実機は存在していますが、アウトボードの中ではメジャーな存在とは言えないかもしれません。
そんな中今回ご紹介するTegeler Audioのリバーブは、唯一無二の存在で、実機にしか出せない強烈な個性を持っています。1例しか音源を載せられないのは残念ですが、ぜひ実際の音を聞いていただき、その魅力をご体感ください。
2、Tegeler Audioというメーカーについて
Tegeler Audio Manufakturはドイツ・ベルリン発のアウトボードメーカーです。以前から海外では話題にとなっていたものの、日本に上陸したのは昨年2023年のことです。
他のメーカーと一線を画す違いは、どの歴史的な機材のコピーやレプリカの製品も持たず、全てオリジナルなアウトボードしかない点にあります。
他にない、ユニークな発想かつ比較的安価で、代えが効かない機材ばかりをリリースしています。
確かに製品の1機能だけを抜き出せば、いわゆる〜タイプのEQ・コンプだねとは言えます。しかし、そのどれもが本家に寄せる音質というよりは、Tegeler自身が目指す理想の音に対して必要な機能だから搭載しているという考えです。
ヨーロッパやアメリカの宅録ミュージシャンに大ヒットとなった500シリーズコンプのVocal leveler 500は日本上陸して間も無く、定番機材の仲間入りを果たしましたね。
どの機材もいわゆるプロ向けのレコーディングスタジオに設置するというよりかは、宅録やプライベートスタジオ向けの製品が多く、まさしく現代のニーズにマッチしていると個人的には思います。
ですから、高級機材で性能を追い求めるというよりは多機能かつ高機能、そして比較的安価を目指しているのだと思います。
3、アナログxデジタルのいいところ取り、Raumzeitmaschine
Raumzeitmaschineってなんて読む?
一見聞きなれないRaumzeitmaschine、そもそもどのように発音するのかというと「ラウムツァイトマシーン」と読みます。
ドイツ語でRaumzeitは「時空」、maschineは「機械装置」、その名の通り、空間(大きさ)と時間(残響時間)を自由に表現できる装置という意味でしょうか。
特に右側のディスプレイ部分には音が入力されると反応して目のように動く演出があるのが面白いですね。
実使用上の機能としては正しく音が入力されいるかどうかの確認でしか使いませんが、こうしたまるで宇宙空間のような表示がされる独特の機能にはテンションが上がります。
出音にこだわったアナログ設計
このリバーブはさすがTegelerさんといったオリジナルな設計です。通常実機のリバーブは内蔵のDSPに処理をさせるデジタル方式なのですが、このリバーブ一味違います。
それは入出力にトランスが搭載されていることと、真空管を搭載していることです。
このトランスと真空管があることによって、濃くてリッチなサウンドを実現しているのです。
マイクプリやコンプなどはこのトランスや真空管の有無によってそのキャラクターが大きく左右されることはよく知られた話です。
俗に言う「倍音豊かな太さ」「温かみ」などと表現されるようなトランスと真空管の組み合わせの特徴がこのリバーブのキャラクターにもそのまま反映されています。
デジタルリコール機能
本機最大の魅力でもあるのがデジタルリコール機能です。
以前ご紹介したCranborne Audio/Carnaby HE2の記事でも取り上げましたが、RaumzeitmaschineもDAW上からコントロールが可能です。
VST、AU、AAXに対応しているので、ほとんどのDAWで使用可能です。
そして全てのつまみはモーターが内部に搭載されており、プリセットを切り替えると自動的にその値まで動きます。
実際の様子がこちらです。
このように「ウィーン」とゆっくり動くので面白いですね。
このようにDAWと連携させてプリセットを切り替えるための方法は次章で詳しく説明します。
4、プラグインコントロールの設定方法(Mac)
<プラグインをダウンロードする>
<LANケーブルを接続する>
空いているイーサーネットポートにLANケーブルを接続しましょう。今回の実験ではCat6を使用しています。
Macでポートが既に埋まっている方はイーサーネットハブを使用しても問題ありません。今回はTB3 to Ethernet変換アダプターと4ポートのイーサーネットハブを使用していますが、問題なく認識しました。
<インターネット共有の設定>
システム設定(システム環境設定)>共有
・左側のウィンドウの「インターネット共有」にチェック。
・相手のコンピューターでのポートを実際にLANケーブルを接続しているポートにチェック(今回はTB3 to LAN変換を使用している)
これだけです。
<プラグインと実機の動作がリンクすることを確認する>
無事にProTools上で難なく認識しました。他のプラグインと同様にプリセットの読み込みも可能です。
まずはファクトリープリセットの中から選んで、音作りすることをおすすめします。
5、実際の音を聞いてみよう
<使用楽曲>
6スタ/春
「エンドロール」 Presented by 突撃!あの人の音楽スタジオ
<使用機材>
オーディオインターフェース:Avid Carbon
マイクプリ:Avid Carbon内蔵
マイク:U87ai
DAW:ProTools Ultimate 2023.6
比較音声
今回はいつも通りYouTubeのオーディオインターフェース比較でもお馴染みのアコースティックギター+女性ボーカル、アコースティックギター+男性ボーカルです。
ギター・ボーカルの両方にリバーブはかけています。
またドラムの素材について、前半はドライデータ、後半スネアにのみ、リバーブをかけています。
<男性ボーカル・女性ボーカル verドライ>
<男性ボーカル・女性ボーカル Raumzeitmaschine ver1>
<男性ボーカル・女性ボーカル Raumzeitmaschine ver2>
<男性ボーカル・女性ボーカル D-Verb(Avid純正)>
<ドラム(スネア) Raumzeitmaschine>
機材師の感想
第一印象はいい意味で大げさにかかってくれるなと感じました。
少しわざとらしいかもしれませんが、抜群の空間の広さとテールの自然さを演出してくれます。
ドラムにもボーカルにもジャンルがハマれば代えが効かない気持ちよさでかかってくれます。脳裏に他で感じることのない美しいテールが思い起こされます。
結局気持ちいいところを探っているとインプットはMAXで、真空管をドライブしていました。僅かながら真空管による倍音が独特の質感を生み出しています。そして中途半端に浮ついたサウンドにならないのもトランスの影響だと考えます。
もしあっさりとしたサウンドが欲しいのならプラグインの方がベターかと思います。
この万能とは言えないが、この機材にしか出せない音があるというのは実機の魔力です。その魔力から抜け出せなくなってしまった機材師でした。
こんな人におすすめ
実際の音声付きでお届けするアウトボードのレビューいかがだったでしょうか。
今回は実際にミックスで使うことを想定して、音源を掲載しました。
音声には載せられないのですが、レコーディングの場面で試してみると、とても演者の方からも好評で、いつもとは一味違った質感で気持ちよく演奏ができたと言ってもらえました。
確かにレコーディングから実機リバーブを使いなから録ることで、最終の完成形を具体的にイメージできますよね。
少し贅沢な使い方ですが、配信などで使っても圧倒的なクオリティを発揮してくれると思います。
今回は試せませんでしたが、シンセやリードのエレキギターにいわゆるペダルの延長線のような音作りで使用してもバッチリかと思います。
上に挙げたようにどう使うかはあなた次第です。
自分なりのベストセッティングを探して、マイプリセットをいくつか保存することをおすすめします。リコール機能があるのでいつでもお気に入り設定を呼び出せますね。
また購入検討されている方はご自身の耳で確かめてください。
<製品リンク>
・Tegeler Audio Manufaktur/Raumzeitmaschine
<試聴についての問い合わせ>
・宮地楽器RPM来店予約フォーム
<機材協力>
株式会社宮地楽器RPM