見出し画像

The 20 Heaviest Metal Riffs Ever

 下の記事は、少し前に音楽サイト「LOUDER」に載ってたドゥームメタル・バンドSprit Adrift/Gatecreeperのギタリストであるネイト・ガレットが選んだ"10 Heaviest Metal Riffs Ever"

 こうしたセレクションものは、その人の好みと聴いてきた音楽の引き出しに依存するので、ネイトのセレクションについては「PowertripとかNeurosisとか良いとこ選んでる!」的な感想しか言えないのですが、個人的にもRiff Monsterの名の通り「メタルの真骨頂は重いギターリフにあり」と強く思っていることもあり、自分なりに重さにこだわった名リフを掘り下げてみるのも面白いかなと思った次第。ただ、50年超のメタル/ハードロックの歴史の中で、機材や録音技術の違いによる音圧的な差異は明らかに存在しているし、また聴き手側のメタル周辺音楽を聴き始めた年代によって「ヘヴィに感じる音」の差異というのもきっと存在するんだろうなと思い、ちょっと選び方を思案。時代背景の差を出来るだけ無くすこと、また自分なりの”Heaviest Riffs”の定義を事前に設定した上でセレクションすることで「単なる好みの発表」から少しでも前進させられないかなと思いやってみました。ルールは以下の通り。

<セレクションルール>
・70年代/80年代/90年代/00年代/10年代の5つの時代に区切り、そこから4曲ずつ選出
・当時の同年代アーティストと比べて、重いリフであるかどうか
・単に重いだけでなく、リフとしての独自性や斬新性、そして何よりリスナーを魅了する訴求力があるか

 選んでて気づいたのが、ヘヴィなギターリフを大きく分類すると①「高密度で圧が強い重さ」②「硬質で鋭角的な重さ」③「粘り気のある重さ」のどれかに当てはまり(組合せパターンもあり)、更にそこにA「有機的」or B「無機的」という音の印象が加わるという感じだったので、以下年代別のセレクション結果についても、分類番号を振りながら紹介していきたいと思います。

■70年代

 この時代はまだヘヴィメタルのジャンル確立以前のハードロック期ということで、メタル然とした金属的エッジの効いたリフの刻みが聴かれる曲は少なく、また録音技術が未成熟だったこともあり、今の耳で聴くと重低音で圧倒するようなリフは数少ないのが正直なところです。そんな中でも、後のヘヴィメタルのプロトタイプとでも言うべき、当時としては飛び抜けて重く激しいリフが炸裂する楽曲を選出してみました。

・Flower Travellin' Band - Satori Part I (1971) 

 ミュージシャンであり日本音楽研究家でもあるジュリアン・コープが「日本のロック50選」でNo.1に選んだのが、ヘヴィロックバンドFlower Travellin' Bandの名盤"Satori"(2nd)。そのオープニングを飾る本曲は、地を這うような重く太いギターと狂気を孕んだVoがうねりまくるサイケデリック要素の強い曲で、現在のストーナー/ドゥームメタルに地続きの陰鬱かつ恐怖感満載のヘヴィリフが堪能できます。リフ分類で言えば③-Aタイプ。同時代では、3rdまでのBlack Sabbathとタメを張れるだけの重くイカれたリフを創造していた唯一のバンドかもしれません。またSlayerのスローパートでのオカルティックな響きとの共通性も感じられますね(特に”South of Heaven”)。

・Hard Stuff - Time Gambler (Rodney)(1972)


 お次は元Atomic Rooster/元Quartermassのメンバーにより結成されたブリティッシュ・ハードロックバンド、Hard Stuffの1stアルバムから飛びっきり骨太な1曲。やたらとファズの掛かった歪みまくりの暗黒リフが、無骨にかき鳴らされてます。リフ分類が結構難しいところですが、その重苦しくざらついた音の印象から言って①‐Aといったところでしょうか。その全体の暗く気怠い雰囲気も相まって、グランジの祖先のような感覚もあります。悲しいくらい知名度の低いバンドですが、このリフの存在感だけをとってももっと評価されて良いバンドだと思います。

・Black Sabbath - Symptom of the Universe (1975)


 70年代のバンドでは突出したへヴィネスと斬新なリフワークの宝庫のBlack Sabbath。正直どの曲を選ぶかでかなり迷いましたが、スラッシュ以降のエクストリームなメタルへの直接的影響力が感じられるリフということで6枚目収録のこちらを敢えてチョイス。初期サバスといえば”Into the Void” や”Iron Man”のような ドゥーミーな③-Aタイプのリフが主流ですが、この曲は重い鉈でザクザクと刻んでいるかのような非常にメタリックな印象が強く、リフ分類としては①-Aですね。Metallica - "Creeping Death"やSepultura - "Slave New World"などを聴くと、この曲の影響力の大きさと先駆性がよく分かるのではないでしょうか。

・Scorpions - He's a Woman, She's a Man(1977)

 最後はウリ・ロート在籍時の名盤"Taken By Force"から。とにかくオープニングリフの「ダダッ」のインパクト。剃刀のように鋭いこのリフは完全に80年代以降のメタルを先取りしてますね。その後の開放弦でのザクザクとした刻みと合間のコードの使い方に至っては、ほぼスラッシュメタルと言っても過言ではないかも。これに関しては、マイナースラッシュバンドEvildeadの音圧をあげたほぼ完コピカバーを聴いてもらえば、言ってることがよく分かるかと思います。リフ分類とすれば、これは②-Aタイプですね。


■80年代

 Judas Priestの”British Steel”やIron Maidenを始めとするNWOBHM以降のパワーコードを主軸としたメタリックなリフのフォーミュラは、その後グラムメタル系からパワーメタル系まで幅広く浸透。重さ・暗さはそれ程ではないものの、70年代ハードロックと比較すると、リフの硬質感、エッジ、スピードの差は歴然。更にそこにVenomやMotorheadの轟音感、ハードコアパンクの圧倒的なスピードとノイジーさ、Black SabbathやMercyful Fateの重さ・暗さ・禍々しさが合わさり、スラッシュメタルの重く激しくスピーディーなリフが誕生。メタルリフの重量化、硬質化が一気に進み、現在のメタル・ミュージックの礎になっているという意味でも、スラッシュメタルの登場は「重いリフ史観」的には非常にエポックな出来事でした。そうした点を踏まえ、本セレクションでは、敢えて典型的メタルリフではなく後年のメタルシーンへの影響度を踏まえた、スラッシュ以降の革新的リフを選出してみました。

・Metallica - Damage Inc. (1986)


 当時スラッシュメタルの中で最も売れてるのに、最も重い音を鳴らしていたのがMetallica。暗く重量感あるリフを高速で刻み、爆音の壁のような圧迫感を創出する手法を確立した「スラッシュメタルのパイオニア」ですが、数ある名曲の中でも、最も破壊的なヘヴィネスを感じさせるのが本曲。幻想的なイントロからフェードインして、ガッチガチの爆音リフが炸裂、更に超弩級のヘヴィリフが4連符で刻まれ爆走していく様が圧巻。ちなみにまだスラッシュメタルが何かも知らない自分が生まれて初めて聴いたMetallicaの曲がコレで、あまりのリフの破壊力に腰を抜かすくらい驚いたものでした。リフタイプは①-Aですね。

・Anthrax - Make Me Laugh(1988)


 メタル界屈指のリフマスター、スコット・イアン。AnthraxやSODで数々の「ヘヴィなのに軽快」な名リフを残してきてますが、ここではグルーヴメタルやインダストリアルメタルなど90年代メタルサウンドの原型を創り上げた隠れた名曲をチョイス。ちなみにグルーヴメタル以降のメタルとそれまでのメタルサウンドとで大きく違うことと言えば、ギターリフとリズム隊の多彩な組み合わせにより、縦ノリから横ノリグルーヴまで幅広いリズムを提示できるようになった点。本曲でも、2ndイントロ後にギターリフ、ベース、ドラム(バスドラ)がユニゾンしながらマシンガンの如き爆音を炸裂させており、基調はお得意の軽快な縦ノリスラッシュ曲ながらも、ヘヴィなグルーヴ感を挟ませることに成功しています(余談ですが、Metallica - ”One”にもギターソロ後に同様のユニゾンによる”マシンガンパート”が出てきます)。リフタイプは、Bっぽさもありつつも曲全体では②-Aですね。

・Soundgarden - Beyond the Wheel (1988)


 重いリフということで忘れてならないのがハードコアパンクサイドからの影響。特にBlack Flag(グレッグ・ギン)の暗くノイジーで粗削りなギターリフのインパクトは絶大で、グランジ/オルタナメタル/スラッジメタルへの影響力という点ではBlack Sabbathと同等のものがあるかもしれません。そのBlack Flag風のノイジーなギターとBlack Sabbath風のドゥーミーなヘヴィリフを融合させたのが本曲。リフ分類は③-A。残響音を巧みに使ったノイジーなリフと呪文のようなVoの絡みによるおどろおどろしさが半端ない。そこから引き摺るようなドゥーミーなリフがのたうちまくり、クリス・コーネルのハイトーンシャウトが恐怖感を更に増幅させる「暗黒絵巻」が堪能できます。本曲の聴き手を恐怖のどん底に突き落とす暗黒リフメークのセンスは、後年のスラッジ勢に相当な影響を与えたのではないでしょうか。

・Overkill - E.vil N.ever D.ies (1989)

 90年代のメタルシーンを一変させた「Pantera with テリー・デイト」サウンド最大の特徴は、独特のチューニングを施し、鋭さと太さを融合させたギターサウンドと、トリガーを使って極端に強調されたバスドラのアタック音。そのテリー・デイトが80年代に一足早く上記サウンド手法のトライアルをしていたのが本曲。アップダウンの激しい劇的な曲の中、中低音域を極端に強調したメカニカルで鋭角的なリフが、高域を強調した硬いドラムサウンドとシンクロしながらリズミカル突進していくサウンドが非常に心地良く、完全に時代を先取りした音になっています。Pantetaが本作のボビー・ガスタフソンのギタートーンとサウンドプロダクションを気に入り、テリー・デイトを”Cowboys from Hell”のプロデューサーとして採用したのは有名な話。なおリフ分類は②-B。


■90年代
 

 90年代は典型的なヘヴィメタル、スラッシュメタルが衰退する中、グランジ、オルタナティブメタル、グルーヴメタル、ラップメタル、ニューメタル、デスメタル、グライドコア、インダストリアルメタルなどのヘヴィなリフを主軸とした新たなサブジャンルが次々と登場した「重いリフ発展期」とでも言うべき時代。セレクション以外にも優れたギターリフの曲が目白押しで、ストレートに「重く攻撃的」「重くグルーヴィー」「重く沈み込む」リフを探すのであれば、この時代が一番充実しているかもしれません。ちなみにセレクションの4曲は、90年代メタルを象徴する高密度・高圧力なギターサウンドを鳴らしつつも、00年代以降の「サブジャンル横断感」にも通ずる多彩なリフが堪能出来る楽曲で、曲によっては複数のリフタイプが絡み合ったものもあります。

・Pantera - By Demons Be Driven (1992)


 Overkillの項で書いた通り、90年代以降のメタルサウンドを一変させたPantera。そんな彼等のリフのインパクトが最大限詰まっているのが本曲。初めてラジオでこの曲を聴いた時の衝撃は今でも鮮烈に覚えていて、その狂暴なグルーヴ感に「全く新しいメタル」の誕生を確信したものです。イントロ/サビ/アウトロでは、4連符+3連符によるまるでマシンガンをぶっ放しているかのような攻撃的かつ精緻なリフで聴き手を圧倒させたかと思えば、ヴァース部分では土着的で粘っこい極太ギターで心地良いグルーヴを堪能させる、その二面性が大きな特徴。前者は後続のグルーヴメタルバンドを始めインダストリアルメタルやプログレッシヴ/テクニカル・デスメタルに、後者はストーナーメタルなどに大きな影響を与えており、その斬新性だけでなく歴史的価値も見逃せません。リフ分類としては、①-B/③-Aの組合せと言えるかと思います。

・Coroner - Grin (Nails Hurt) (1993)


 テクニカルなスラッシュメタルで玄人受けしていたスイスのバンドCoroner。本5thアルバムでは、無機質なサウンドプロダクションの中、サイケやプログレ、インダストリアルの要素を巧みに入れ込んだかなりアヴァンギャルドなメタルに移行していますが、これが時代を相当先取りした鬼のようにカッコ良いサウンドで、本曲でも「リフアイディア見本市」とでも言うべき多彩かつ斬新なギターリフが存分に堪能できます。複合拍子と絶妙に絡み合う粘っこく粒子の荒いギターリフでスタートし、Voパートでは一転切っ先鋭いメカニカルなリフを刻む。そして圧巻なのが後半の疾走パート。無機的なドラムに合わせて、重量級リフがマシーンの如く反復し、凄まじい圧迫感を聴き手に与えてくれます。そしてエンディングに向けてひたすら疾走するリズムの上をドゥームゲイズ風のギターが繰り返しかき鳴らされ唐突なエンディングを迎える。Tool、Opeth、Death、Meshuggah、Voivod、Jesuなどが後年発展させたアイディアの源が既に93年の時点で創造されていたことは驚異的ですね。1曲の中に様々なリフタイプが登場しており、分類は①②③-Bと言ったところでしょうか。

・Prong - Another Worldly Devise (1994)


 当時日本で「モダンヘヴィネス」と呼ばれていたサウンドを最もクールに体現していたのがHelmetとProng。テリー・デイトをプロデューサーに迎えたことで、サウンドプロダクションが大幅に向上。この上なく冷酷無機質な音作りに徹しており、本曲冒頭の歪みまくった高密度・高圧力なギターリフが切れ味鋭く、矢継ぎ早に襲い掛かってくるインパクトは本当に強烈で、発売当時は憑りつかれたかのように聞きまくってました。しかも、細かい微妙なミュートやスライド、ピンチハーモニックなどによる「間」と「ズレ」を醸し出す変則的リフワークにより、メカニカルな音の中に独特のグルーヴ感を創出している点も見逃せません。この卓越したリフセンスは”Cleansing”のアルバム全編で堪能出来ます(特に冒頭4曲は「重いリフ史」に残る名演!)。リフ分類は①-B。

・Fear Factory - Self Bias Resister (1995)


 元々はグラインドコアバンドだったFear Factory。そこにグルーヴメタルの重くメカニカルな要素を抽出・増幅・融合し、更にGodfleshの激重インダストリアルな音作りのエッセンスをまぶして、猛烈に破壊力ある無機質サイバーメタルを完成させたのが2nd”Demanufacture”。とにかく痛いくらい喧しい。その中でもとりわけヘヴィで、まるで削岩機が暴れているかのようなスピーディーで破壊力あるリフが聴けるのが本曲。硬質かつ高密度な激烈リフと人間業とは思えないバスドラムの連打が混然一体となって眼前に迫ってくる迫力は、ヘヴィネスの極北と言いたくなるほどで、そのインパクトは発表から25年以上を経た今でも全く色褪せません。リフ分類は典型的な①-Bタイプですね。


■00年代

 メジャーシーンを代表するニューメタル/ポストグランジ系バンドが続々と脱ヘヴィ化に向かう中、メタルコア登場以降の正統派メタルの見直し機運、北欧メロディックデスメタルへの世界中からの注目、欧州を中心としたゴシック的耽美性の大衆化、ブラックメタルの洗練化などの動きがオーバーグラウンドで勃発。グルーヴィな音が主流であった米国中心のシーンから、メロディやドラマ性回帰の流れが一気に進み、メタルの多様化とグローバリゼーションが急加速したのがこの時代。またジャンルの境界線拡大を試みる先進的アーティストや卓越した演奏力でリズム面での革新を試みるアーティストが次々と登場し、ポストメタル、エクスペリメンタルメタル、プログレッシブデスなど1つの音楽的フォーミュラに収まらない多様なサウンドを提示する作品が多数誕生しました。ちなみにリフの発展という観点から見ると、へヴィネスの純化というよりは、新たな音色の作り方や奏法の革新に意識が強く向いてた時代。その中でも音密度や音圧のインパクトだけに頼らない、様々な工夫や発明により、個性的かつ尋常ならざるへヴィネスを聞かせてくれた4曲をセレクションしています。

・Electric Wizard - Funeralopolis (2000)


 極端に重く遅いドゥーム/ストーナーメタル・サウンドでシーンの度肝を抜いたイギリスのジャンキー集団Electric Wizard。この名盤3rd収録の本曲も、異様に歪みまくった激重リフが引っ張るウルトラへヴィ&サイケデリックな曲ではありますが、よくよく聴くと結構ブルージーでキャッチー。ブルース的なフィーリングを巧みに入れることで、激重激遅な音のままでサバスの"Iron Man"や"Sabbath Bloody Sabbath"みたいに「思わず口ずさめる」メインリフに仕立て上げてしまうそのセンスが抜群。また曲後半どんどん盛り上がっていき、暴力的なリフが次々と繰り出されていく展開も圧巻。退屈になるか、麻薬的魅力ある曲になるかが本当に紙一重のドゥーム/ストーナーメタルですが、やはりリフセンスが一番ものを言う音楽だなと改めて痛感させられる1曲。重くて遅いだけの凡百のドゥーム/ストーナーメタルバンドとの格の違いがよく分かります。リフ分類は③-A。

・Nevermore - Born (2005)


 00年代以降により顕著になるのが、〇〇というサブジャンルに収まり切れないジャンル横断的な素養を感じさせるアーティストの増加。このNevermore、どこをどう切ってもメタルではあるのですが、パワーメタル、プログレメタル、スラッシュメタル、デスメタル、ニューウェーブ(特にゴシックロック)的要素など様々な顔を持ちながらも、そのどれでもない唯一無二なサウンドを鳴らしているバンドです。代表作6thオープニングの本曲は、デスラッシュ系バンドのこどく重低音のスピーディーなリフで突撃するものの、よく聴くと4連符から3連符の刻みに変化していたり、音階が微妙に違っていたりととにかく芸が細かい。様々なリフ要素を縦横無尽に使いこなすジェフ・ルーミスのセンスとテクニックを存分に堪能出来る1曲ですね。デスメタルを凌ぐブルータルで冷酷無機質なギターサウンドも強烈。リフ分類は②-B。

・Meshuggah - Bleed (2008)


 リフという観点からすると、00年代以降のメタルシーンに最も強烈な影響を与えたバンドはMeshuggahかもしれません。7/8弦ギターによる徹底的に無機質な独特の音色(ギュエンとかズギュンみたいな感じ)で、裏拍~表拍を行き来するような複雑怪奇なリフと最早人間業とは思えないドラムのメカニカルなグルーヴによるインパクトは、Djentなるサブジャンルを生み出し、マスコアやテクニカルデスはもちろんのこと、Tool、Gojira、Deftonesといったメジャー級のバンドにも少なからぬ影響を与えています。かなり難解な印象の作品もある中、音の整合性やスラッシュ的な要素の復活もあり比較的聴きやすい作品が本曲が収録されている6th。よく聴くと普通に4/4拍子でリズム的にも速くはないのですが、「1拍にどれだけ刻んでるんだ」と言いたくなる高速ブリッシミュートによる激烈リフと変態ドラムの反復に頭が混乱すること必死。なのに横ノリグルーヴの心地好さは不思議と担保されていて、まるでテクノを大音量で浴びてる時のようなトリップ感が堪能出来ます。リフ分類は②-B。

・Candlemass - Hammer of Doom (2009)


 へヴィでスローな音楽も実は裾野が広く、サバス直系だけでなく、デスドゥームや更にそれを極端に突き詰めたフュネラルドゥーム、ガレージロック、ハードコア、ジャンクから発展したスラッジコア/メタル、サイケデリック要素が強いストーナーメタル、最早ノイズや実験音楽のようなドローン・メタルなど様々なサブジャンルが発展し、更にその他音楽とも融合しながら進化を続けています。その中でも最もメタルらしい荘厳な世界観が堪能出来るのがエピックドゥームで、今回紹介するCandlemassはまさにジャンル確立の立役者あり、また未だ最強のバンドであり続けています。10th収録のこの曲は、鐘の音の使い方や全体のおどろおどろしい雰囲気、エンディングに向けてテンポアップするところなど"Black Sabbath"を彷彿とさせますが、とにかく半端なく重くて遅い。少ない音色ながらも残響音を巧みに使い、地を這うような重く粘り気ある音として聴かせる職人芸的ギターが素晴らしい。またロバート・ロウの骨太で熱いハイトーンヴォーカルの存在感が曲を一段と粘性の高いエピカルなものへと昇華させているように思います。リフ分類は勿論③-A。


■10年代


 メタルのみならずロック自体がメインストリーム音楽でなくなったことや、サブジャンルの枝分かれがより進んだことで、シーン全体を牽引するトレンド的ものはあまり見られず、基本的には00年代の延長線上に位置付けられる時代だったかと思います。これは言い換えれば、個々のアーティストの独創性により注目が集まる時代になったとも言え、語義通りプログレッシブな挑戦をするアーティストが増えたことで、印象的にはメタルの音楽的深化が進んだ10年間だったと個人的には受け止めています。リフ史的にもそこまで影響力のある出来事はありませんでしたが、リズムと重量級リフとの絡みの面白さがより鮮明になった時代ということもあり、そんな視点で4曲をセレクトしてみました。

・High on Fire - Fertile Green (2012)


 グラミー賞を受賞するまでなったSleepのマット・パイプ率いる轟音トリオ。最近はより音のMortorhead化/スラッシュメタル化が進んでいますが、この時期のHigh on Fireは、ドゥーム/ストーナー、パンク、デッスンロール、スラッシュのバランスが絶妙な時期で、「重いリフ」という点でも非常に多彩な轟音リフを鳴らしていました。その中でも本曲は、スラッシュを通り越したインダストリアル的なビートと粗っぽい重量級リフが一体化し、ハンマーを叩きつけてるかのような音塊となってドライブする何とも痛快な一曲。スラッシュ的構造の曲をスラッジ/ストーナー系リフの音色とMastodon以降のカオティックなドラムアプローチで調理した曲といった感じでしょうか。基本は疾走曲ですが、ヴォーカルパートではドラムフィルの強烈な連打の中、ざらついたリフが粗暴に掻き鳴らされ、それがまた全体の獰猛な印象をより強めています。リフ分類は①-A。

・Nile - Call to Destruction (2015)


 Morbid Angelの系譜である邪悪で禍々しいリフを徹底的に突き詰め、そこにエジプト音楽のメロディを導入し「ブルータルなのに荘厳」という唯一無二の音世界を築き上げたNile。名リフ多数の彼等ですが、ここでは8thのオープニングを飾る激速曲をチョイス。Sepultura的なスラッシュ風味のあるリフから怒涛のテクニカルなブルデスリフになだれ込む手腕の見事さったらありません。激烈なのに非常にキャッチーなリフとジョージ・コリアスの超人的ドラミングとのコンビネーションの素晴らしさは、ブルータルデスメタル界でも最高峰に位置するのではないでしょうか。隙間の無い、まるで音の壁で圧迫してくるかのようなサウンドプロダクションも強烈。リフ分類は①-B。

・Gojira - The Cell (2017)


 Gojiraは、その音楽的多様性とアーティスティックな精神性で10年代のメタルシーンを牽引していたバンドの1つ。デスメタル的な重量感ということでは3rd"From Mars to Sirius"が強烈ですが、ここでは聴きやすさと音楽的冒険を見事に両立させた名盤6th"Magma"切ってのテクニカルな1曲を選んでみました。Cannibal Corpse - "Scourge of Iron"のイントロを彷彿とさせる高速リフの刻みと、リフとは全く違う変則的リズムを叩くドラムとのコンビネーションが素晴らしい。その後スピーディーなイントロから一気にビートダウンして、強烈なベンドダウン奏法による極悪リフワールド(グゥーン グゥーンという感じ)をこれでもかと言う程堪能出来ます。リフ分類は②/③-Bですね。

・YOB - The Screen(2018)


 ドゥーム/スラッジメタルをプログレやポストメタル的な感性で進化させている米国オレゴン出身のユニークなアーティストYOB。メタルシーンでも高い評価を得た"Our Raw Heart"(8th)収録のこの曲では、ドゥーム/スラッジ系の音楽では珍しい3拍子の拍に合わせ強烈に歪んだ超重量級リフがミニマルに刻まれ、まるで「ドゥームワルツ」とでも言うべき奇妙なダンサンブルさを感じさせてくれます。1拍目でリフとドラムとシンバルが重なり、より曲の重量感を引き立ててますね。ヴォーカルの噛みつかんばかりのグロウルとサビでのハイトーンによるエモーショナルな熱唱も非常に良い味わい。リフ分類は①-A。

 以上20曲。書き始めたら熱中してしまい、ついつい長い文章となってしまいましたが、単に好きなリフを並べるだけに留まらず、リフを主軸にメタルシーンの発展を眺める視点を少し意識してみましたので、下記リンクのプレイリストとともに、「重いリフワールド」をぜひ目と耳の両方でご堪能ください。



いいなと思ったら応援しよう!