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Best Metal Ballads - Part5 (80年代)
「メタルバラードとは何か?」「今回のセレクションの視点」みたいなことは下記の序論にまとめてますので、未読の方はこちらをどうぞ。
5回シリーズの最終回は、80年代の「ベスト・メタルバラード」10曲。UFO - Try Me, Scorpions - Born to Touch Your Feeling, Judas Priest - Dreamer Deceiverといった70年代ハードロック期の名バラードの持つドラマ性や叙情性を、洗練されたサウンドプロダクションと演奏・編曲技術で発展させたのが80年代のメタルバラード。ピアノorアコギの静かなイントロからスタートし、ハイトーンボーカリストの押しと引きを巧みに使った熱唱とともに、哀愁を帯びたギターが泣きまくるのが基本スタイル。この時代、グラムメタルやキャッチーなハードロック系バンドが、ヒットチャートに「ハードロックバラード」を多数送り込んでいましたが、それらの曲の耳馴染みの良さと比べると、叙情性の表現がとにかく濃厚で、雰囲気も暗め。よってシングルヒットしたものは少なく(ScorpionsとX JAPANくらい)、アルバム構成の中でその存在感を発揮する楽曲が多くセレクションされる結果となりました。
Accept - Winterdreams
冬の夜の寒空を想起させる、静寂な雰囲気のバラード。ウド・ダークシュナイダーのいつもの金切り濁声ではない不器用ながらも切ない歌声が、何とも言えない哀愁を醸し出し、聴き手の涙腺を刺激してきます。印象的なサビの後方で鳴る鐘の音も冬らしさを分かりやすく演出してますね。またウルフ・ホフマンの要所で決める泣きのギターが素晴らしく、曲の哀愁度を更に引き上げています。 (”BALLS TO THE WALL" 10曲目|1983年)
Helloween - A Tale That Wasn't Right
Steelheart”She’s Gone”と並ぶ、もはや演歌と言いたくなるほどの泣きが凄まじい「やり過ぎメタルバラード」。初期Scorpionsにも”Fly People Fly”, “Life’s Like a River”等、演歌ギターが炸裂する楽曲がありましたが、その伝統をしっかりと受け継いでいますね。感情たっぷりと言うか、鬼気迫る感覚すらあるキスクのサビの強烈なハイトーン、ヴァイキーのタメまくりの哀愁ギターと、あらゆる要素が濃厚です。(”KEEPER OF THE SEVEN KEYS Part1"5曲目|1987年)
Judas Priest - Night Comes Down
イギリスのバンドらしい湿り気のある叙情的バラード。抑制されたやや渋めの雰囲気でスタートして徐々に盛り上がりを見せる曲展開や要所で出てくるヘヴィなバンド演奏含めて、非常に威厳を感じさせるサウンド。ロブのジャンルを超えたボーカリストとしての技術力の高さと歌メロづくりの上手さが光りますね。派手さはないので取り上げられることの少ない曲ですが、隠れた名曲だと思います。(”DEFENDERS OF THE FAITH" 8曲目|1984年)
Loudness - Ares' Lament (アレスの嘆き)
英語版もありますが、歌詞のメロディへの乗り方が良く、また曲の持つ情感が上手く表現されている(特にエモーションが最高潮に達する”この腕の中、抱き寄せたなら、涙で息も詰まって…”の部分)日本語版をあえて選出しました。歌謡曲的なコテコテの哀愁に満ちた二井原実のエモーショナルな歌い回し、泣きまくりの高崎晃のギターと、異常なまでの悲しみに溢れた泣きの名バラード。(”DISILLUSION~撃剣霊化” 9曲目|1984年)
Manowar - Heart of Steel
戦いをテーマにした、物悲しさと勇壮さが同居する力強いパワーバラード。ピアノとボーカルのメランコリックで物静かなバラードかと思いきや、2番からはバンドサウンドも入り、一気にパワーメタルバラード化。交響曲のような仰々しい展開の曲で、サビの”Stand and Fight”後の聴き手を鼓舞するリズムと効果音、ギターソロ前の”Born with a heart of steeeeeel”のエリック大絶叫等、色々やり過ぎてて最高です。("KINGS OF METAL" 3曲目|1988年)
Savatage - When the Crowds are Gone
起承転結構成の劇的バラード。起)緊迫感あるピアノで物悲しくスタート。テーマは過去。承)バンドサウンドが曲の熱量をアップ。成功しなかった音楽家の悲しい物語。転)流麗なギターソロから曲が展開し、金切りシャウトが胸を打つクライマックスへ。終焉を迎えた心情を吐露。結)静かなピアノをバックにジョン・レノン風の穏やか歌唱で締め。光を消しゴーストを誘う。最後は死の暗示か。脱力感すら覚える感動の名曲。(”GUTTER BALLET” 4曲目|1989年)
Scorpions - Still Loving You
Scorpionsを代表する大ヒットバラード。恋愛ソングの体裁を取りながらも当時の東西冷戦(まだドイツは西と東に分かれていた)を暗喩した重たいテーマの曲で、溜息が出るほどの暗さと美しさ。クラウス・マイネの少し鼻に掛かった美声が、胸を締め付けるような感動を誘います。またマティアス・ヤプスの随所に挟み込む泣きのオブリガードのセンスも抜群です。(”LOVE AT FIRST STING" 9曲目|1984年)
X JAPAN - Endless Rain
スラッシーに疾走する演奏をバックに、歌謡曲的明快なメロディを悲哀感溢れるハイトーンボーカルが絶唱する唯一無二のスタイルを築いたX JAPAN。それら疾走曲とは異なるもう一つの柱が、YOSHIKIのピアノによるバラード。数ある名バラードの中でも、高音が連続するサビメロの出来がすこぶる素晴らしいのがこの曲。感情を紡ぎ出すTOSHIのエモーショナルな歌唱が胸を打ちます。(”BLUE BLOOD" 6曲目|1989年)
Viper - Moonlight
アンドレ・マトスがAngra結成前に在籍していたViperの名盤2ndから、ベートーヴェンのピアノソナタ「月光」をモチーフにした荘厳なバラード。暗く悲しいピアノのフレーズがゆったりと進み、アンドレの悲壮感漂うハイトーンとバンドアンサンブルが絡み合いながら起伏あるダイナミックな展開を見せる劇的楽曲。ヴァイオリンソロ前の超ハイトーンでの絶唱が凄まじい。(”THEATRE OF FATE" 8曲目|1989年)
Y&T - Winds of Change
Y&Tのしっとり系楽曲と言えば名曲”I Believe in You”がありますが、曲後半派手に盛り上がるため今回は選出外に。もう1つのしっとり系名曲がアコースティックバラードのこの曲。デイヴ・メニケッティのソウルフルな歌唱が素晴らしく、特にブリッジ部で盛り上がりながらも、”Winds of Change, blowing strongly”と歌うサビでスッと脱力して情感をさらに高める展開が絶品です。(”BLACK TIGER" 9曲目|1982年)