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Best Metal Ballads - Part4 (90年代)

 「メタルバラードとは何か?」「今回のセレクションの視点」みたいなことは下記の序論にまとめてますので、未読の方はこちらをどうぞ。

 今回は、90年代の「ベスト・メタルバラード」10曲です。まだ80年代メタルの残り香のあった前半の数年を除くと、実は90年代はメタルバラード暗黒期。グランジ/オルタナティブやグルーヴメタルの台頭以降、メタルらしさの特徴でもあるドラマティックな展開やベタな叙情性が「時代遅れ」とされ、結果それら要素が凝縮されたメタルバラードそのものの絶対数が大幅に減少。この10曲のセレクションでも、そうしたトレンドが作品に反映され始める前の92年までに発表された楽曲が8曲を占めていて、改めてメタル史における90年代という時代の特異性を感じます。ただ、全てが80年代延長線上のメタルバラードという訳ではなく、サイケデリックなもの、静けさと重厚感のダイナミックスが堪能出来るもの、アーバンで洗練されたもの、プログレ的な緊張感溢れるものなど、比較的多様なスタイルの楽曲が揃っていて、メタルが多方面に発展していく萌芽を発見出来るかなと思います。

Annihilator - Phoenix Rising

バラエティに富んだ楽曲を取り揃えた”SET THE WORLD ON FIRE”収録のアコースティックバラード。スラッシュメタルバンドが何となくバラードをやってみました的な楽曲とは一線を画した、メロディ、展開、歌のどれもが非常に高い完成度。特にサビのコーラスにおける感動的な盛り上がりが素晴らしい。ジェフ・ウォーターズの多才さを改めて認識出来る1曲です。(”SET THE WORLD ON FIRE" 5曲目|1993年)

Dream Theater - Another Day

”IMAGES AND WORDS”がいかにメロディアスなフックを持った名盤だったかを象徴する、サックスを効果的に使ったアーバンなテイストのバラードナンバー。美しいメロディを豊かな声量と確かなピッチコントロール技術を持つジェイムズ・ラブリエが熱唱。特に”So try another daaaay…”以降のハイノート連発を、全く線が細くならずに厚みのある声で歌い切ってしまう超人っぷりには驚きしかありません。("IMAGES AND WORDS" 2曲目|1992年)

Heavens Gate - Best Days of My Life

正統派メタルの名盤”LIVIN’ IN HYSTERIA”収録の濃厚なバラード。泣きのピアノのイントロから厳かに歌がスタート。バンドサウンドと共にエモーショナルに盛り上がり、ラストはまたピアノと歌でしっとりと締める、まさにメタルの王道バラードスタイル。トーマス・リトケのロニー・ジェイムス・ディオを彷彿とさせる節回しとダイナミックな歌唱が、楽曲のドラマ性を更に高めています。(”LIVIN’ IN HYSTERIA” 8曲目|1991年)

Metallica - The Unforgiven

Metallica史上最高のバラード。バックのギターが重く、ヴァース〜ブリッジ部分だけ切り取るとメロディアスなドゥームっぽくもありますが、リフが歌の伴奏に徹していること、スローなリズムを保っていること、イントロとサビの繊細なバラードらしさから、今回のメタルバラード選に捩じ込みました。静と動のダイナミクスある構成に加えて、緩急を巧みに操るジェイムスの情感豊かな歌が素晴らしい。(”METALLICA” 4曲目|1991年)

Queensrÿche - Anybody Listening?

ヒット曲“Silent Lucidity”も、ジェフ・テイトの優しい低音の魅力が味わえる癒しの名曲ですが、今回はメタルバラード選なので、彼等らしいプログレ的な緊張感とドラマティックな展開が聴けるこの曲を。とにかく凄まじいのがジェフの歌唱。深遠な歌詞世界をしっかりと描き切る、まるで演劇を見せられてるかのような圧倒的な表現力。そしてメタル界最高峰の厚みのある伸びやかなハイトーン。圧巻です。(”EMPIRE” 11曲目|1990年)

Riot - Runaway

耳に突き刺さるような超絶ハイトーンではなく、トニー・ムーアの中音域を巧みに使った歌唱が光る名バラード。憂いを帯びたアコースティックギターから始まり、陰影に富んだ美しいボーカルメロディが胸を打ちます(特に”cries a wounded child”と歌う部分は背筋がゾクっとするほど)。曲全体の持つ緊張感を、優しくメロディアスなマーク・リアリのギターソロが上手く緩和してくれる構成も素晴らしい。(”THE PRIVILEGE OF POWER” 3曲目|1990年)

Skid Row - Wasted Time

ヘヴィ&エネルギッシュ路線に舵を切った名盤”SLAVE TO THE GRIND”。収録されている3曲のバラードは、どれも甘さの一切ない静と動のダイナミックスの効いた逸品。中でも絶品なのが緊張感とメロディの陰影が絶妙なこの曲。堕落し袂を分けたかつての友を憂える歌詞内容に見事にマッチしたセバスチャンの感傷的な歌が胸を打ちますJudas Priestの正統後継者と言いたくなる深みのある名バラード。(”SLAVE TO THE GRIND” 12曲目|1991年)

Soundgarden - Black Hole Sun

Soundgardenを代表するダウナーバラードの名曲。The Beatlesがインスピレーション元であろうサイケデリックに味付けされた奥行きあるサウンドの中、クリス・コーネルの色気ある中音域を活かした絶品の歌唱が心に沁みます。ヴァースからサビに向かってゆっくりと中心に向かって吸い込まれていくような、独特の浮遊感あるメロディの流れが心地良い。(“SUPERUNKNOWN” 7曲目|1994年)

Steelheart - She's Gone

マイク・マティアビッチの怪物的歌唱が堪能出来る情熱的バラード。ヒット曲でもない35年前の曲が1.3億回ものMV視聴回数と、今でも世界中で愛され続けている名曲です。絶望感すら感じさせるピアノのイントロ、演歌的な泣きまくりのギター、情念を溜めに溜めてサビで爆発させる曲構成、3:37からの信じられない強烈なハイトーン(HiG)の連発。過剰な泣きとドラマ性がメタルらしくて最高です。(”STEELHEART” 9曲目|1990年)

W.A.S.P. - Hold on to My Heart

ワイルド&キャッチーなアメリカンメタルから、シリアスな正統派メタルに舵を切った名盤”THE CRIMSON IDLE"収録のアコースティックバラード。人生の悲哀を描いたダーク&メロウなバラードの前曲”The Idol”(これも名曲)との流れで聴くと、更にこの曲の持つ魅力が感じられるかと思います。作品中、最も明るい希望を感じさせるメロディとサビの盛り上がりが胸を打つ癒し系バラード。(”THE CRIMSON IDLE” 9曲目|1992年)


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